第155話 過去と未来

◇真霧side◇

「終わった〜!!」


 撮影が終わると、俺の方に走ってきた一羽はそのまま俺のことを抱きしめてきた。

 俺はそんな一羽のことを抱きしめ返して言う。


「お疲れ様だったな、相変わらずとても輝いてた」

「っ〜!色人にそう言ってもらえるだけでもう体の疲れなんて全部吹き飛んじゃう〜!」


 それから少しの間抱きしめ合っていると、そろそろ周りからの視線が痛くなってきたため、俺たちは軽く挨拶をしてから撮影スタジオを後にする。

 そして、腕を組むと俺の家に向けて二人で歩き始めた。

 この後は、俺と一羽、蒼先輩の三人で過ごすこととなっている。


「それにしても、色人がモデルになるって聞いた時は本当に驚いたよ!」

「改めて、黙ってて……あと、何も相談せず決めて悪かったな」

「ううん!むしろ、私は前から色人は絶対すごいモデルになれるって思ってたし、何より私との思い出を大事にしてくれての決断って思ったら本当に嬉しいから、何も謝ることないよ!」

「そうか」


 それから、少し間を空けると、一羽は俺と腕を組む力を強めて、頬を赤く染めながら嬉しそうな声で言った。


「今まで仕事中は色人と会えないから寂しいなって思ってたけど、来年からは……仕事中も、色人と会えるようになるんだよね」

「あぁ、まさかいきなり一羽とツーショットを撮るなんて案が出るとは思わなかったけどな……モデル経験の無い俺が、一羽の横に並べられてどこまで上手くできるかどうか」

「大丈夫だよ!今までは色人にたくさん助けられてきたけど、モデルでは私の方が先輩だから、色人が困ったときは私が絶対助けてあげる!」

「心強いな」

「えへへ」


 その後、俺たちはそのまま楽しく話しながら二人で俺の家に向けて足を進めて家に入ると、その直後に葵先輩もやって来て三人で合流した。

 そして、俺の家のリビングで、俺が一羽と同じ事務所でモデルになることを伝えると────


「え〜!色人くんモデル始めるの!?一羽ちゃんのも全部買ってるけど、色人くんも始めるんだったら色人くんが出る雑誌とか全部買って行かないと!!」


 と、とても嬉しそうな反応を見せてくれた。

 それに対して、一羽が言う。


「私も自分のをわざわざ買うことはあんまり無いけど、色人の出てるやつは全部買お〜!」

「ね〜!はぁ、でも良いなぁ、冬休みは時間いっぱいあるからまだ良いけど、三学期とか来年の春とかになったら本格的にまた夏に向けて練習が始まるから私は全然色人くんと会えなくなっちゃうよ〜」

「……」


 このことはまだ決定したというわけではないから、モデルになることを一羽に伝えなかったのと同様に葵先輩にもまだ伝えるつもりはなかったが……

 俺は一羽のことも蒼先輩のことも同じぐらい好きで、大切で、そう思っていることを二人にわかって欲しいと思っているため、今伝えることにした。


「葵先輩、そのことなんですけど────俺も、来年から葵先輩と同じ水泳部に入部することに決めました」

「え!?そ、そうなの!?」


 驚く葵先輩に対して、俺は頷いて言う。


「はい、まだ入部届を出したわけじゃないので確定じゃなくて、入部できたとしても春からになるなんて可能性もありますけど……一応俺の意思としては水泳部に入部するつもりです」


 俺がそう伝えると、葵先輩は表情を明るくして楽しそうに言った。


「じゃあ、この先色人くんと同じ部員として一緒に競泳とかできるってこと!?」

「そうなりますね」

「っ!嬉しい〜!私、ずっと色人くんが水泳部に入ってくれないかなって思ってたから、本当に嬉しいよ!」

「……同じ部ってことは、また水泳大会とかあったら色人と葵先輩が一緒にチームで出るってことになるの?待って、そんなの私得すぎない!?」

「うんうん!あ、そういえば、去年の個人じゃなくて高校戦の方で私の次に泳いでたのって、実は色人くんだったんだよ?」

「え!?あ、あのめちゃくちゃ速い人、色人だったの!?」

「そうそう、あの時は────」

「……」


 ────偽りの存在は、本物の存在へ。

 ────過去の部活でのトラウマは、未来の楽しい時間へ。

 俺は、俺のことをここまで変えてくれた二人に感謝を抱きながらも、二人と一緒に過去の思い出や、これからの未来について楽しく話し合った。



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平凡なフリをしている俺が、実はクラスの美少女モデルを助けた人物の正体だとバレないように全力で二重生活をこなそうと思う 神月 @mesia15

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