第151話 葵先輩とクリスマスの夜

 イルミネーションプールという、聞いたことすらないものがあるという建物の中に入ると、俺と葵先輩はそれぞれ男女別の更衣室で着替え始めた。

 この12月というとてもプールと結び付かないような寒い季節にプールに入るなど正気では無いと思う人も居るかもしれないが、このイルミネーションプールは俺たちの学校と同じように温水プール。

 一体どんな感じなのかと今から楽しみに思いながら、俺は着替え終えると更衣室の前に出て葵先輩が出てくるのを待つ。


「……こうして水着姿で葵先輩が更衣室から出てくるのを待つのは、夏以来だな」


 思い返せば、本当に夏の時から考えれば今の俺たちの関係性は信じられないほどに変化した。

 あの頃は明るく優しく、気遣いができる先輩だというイメージが強いが、今ではそれだけでなく────


「お待たせ〜!色人くん!」


 と考えていると、水着姿の葵先輩が更衣室から出てきた。

 そして、俺との距離を縮めてきて言う。


「今日は白のビキニにしたんだけど、どうかな?何か感想とかある?」


 ……感想。

 以前何度か聞かれた時は、心の底から特に何か思うようなことはなかった……が、今は。


「とても似合ってると思いますよ、葵先輩の魅力を引き出す良い水着だと思います」

「っ〜!」


 俺がそう答えると、葵先輩が嬉しそうに俺と腕を組んできて言う。


「色人くんがやっと私の水着姿褒めてくれた〜!嬉しい〜!そうだ、もちろんだけど、色人くんもとってもカッコいいからね!」

「ありがとうございます」


 それから、俺たちは温かい雰囲気で腕を組んだまま歩いて、しっかりと暖房の聞いた建物内を歩いてくると……

 いよいよ、イルミネーションプールがある場所までやって来た。


「すご〜い!綺麗〜!」

「ここが、イルミネーションプール……」


 プールの水は多彩な色で光り、周りにあるオシャレな照明道具もそれぞれが違う色を出していて、この場所全体が綺麗にライトアップされている。

 屋内のためナイトプールでは無いが、普通のプールでもない……正真正銘、これがイルミネーションプールというものなのだろう。


「色人くん!入ろ!」

「はい」


 その合図によって二人でプールに入ると、葵先輩は楽しそうに言う。


「色人くんとプール入るの久しぶり〜!ねぇ、誰も居ないみたいだし、今から競泳しようよ!」

「良いですね、しましょう」


 ということで、俺たちはいつかのように二人で競泳を行った。

 前の段階では葵先輩に勝るとも劣らないといった遊泳能力を持っていて、水泳はできていないが今でもジムなどには通い続けており、あの頃よりも体力や筋力は増している。

 ────が。


「私の勝ちだね〜!」


 結果は、数秒ほど差を開いての葵先輩の勝利だった。

 そして、その結果は何度か繰り返しても変わらなかった。


「凄いですね、秋に一度泳ぎを見せてもらった時にわかってたことですけど、本当に凄く速くなってます」

「でしょでしょ〜?お姉さんのこと、尊敬した?」

「それは、もう前からしてますよ」

「っ……!」


 俺がそう伝えると、葵先輩は少しほおを赤く染めた。

 そして、少し真面目な顔つきになって言う。


「冗談で調子付いたこと言ったけど、今の私があるのは間違いなく色人くんのおかげだよ……色人くんが居てくれたから、私はここまで頑張れて、これからも頑張ろうって思えるの」


 続けて、葵先輩は正面から俺のことを抱きしめてくると、気持ちの込められた声で言う。


「色人くん……あと一箇所だけって言ってここに来たけど……この後、私の家に来てくれないかな?今夜は……まだ、色人くんと一緒に居たい」


 その葵先輩の言葉に、俺は抱きしめ返して答える。


「はい……好きです、葵先輩」

「っ……!私も大好きだよ、色人くん」


 頬を赤く染めて、嬉しそうな笑みを浮かべて言うと、葵先輩は俺を抱きしめる力を強めた。

 それに呼応するように俺も抱きしめる力を強めると、俺たちは互いの顔を見つめ合う。


「……」

「……」


 そして、自然と顔を近付けると────唇を重ねた。

 その後、イルミネーションプールを後にして葵先輩の家に行くと、俺は葵先輩と二人の部屋で初めて長い夜を過ごした。

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