第147話 アイススケート

「────二学期終わった〜!今日から冬休み〜!」

「だね〜!」


 今日は特待別世高校の二学期終業式の日。

 一羽と葵先輩の二人と一緒に校門を出ると、一羽が叫び葵先輩が頷いた。

 一学期が終わった時はとても濃密な一学期が終わったと思ったものだったが、この二学期は比にならないほど濃密だったな。

 一学期が終わった時の俺と今の俺とでは、別人と言っても良いほどに自らの変化を実感している……そう考えると。


「一学期が終わった時は何も感じなかったが、この二学期は色々とあったから……少し、終わるのが名残惜しいな」


 俺が柄にも無くそんなことを呟くと────二人は、左右からそれぞれ同時に俺と腕を組んできて言った。


「色人がそんなこと言ってくれるなんて感激!!嬉しい!!」

「色人くんも、本当に可愛いね〜!でも、名残惜しいなんて言ってる暇無いよ?」

「そうそう!これから私たちは、もっといっぱい楽しいことしていくんだから!」

「……そうだな」


 思い出というものは大事かもしれないが、だからと言って思い出ばかりに浸っていたら目の前にある幸せを溢してしまうかもしれない。

 俺に笑顔を向けてくれている二人と顔を合わせると、俺は続けて言った。


「今日も、早速今から三人で遊びに行くんだったな」

「うん!」

「出発〜!」


 とても上機嫌な二人と一緒、そのまま目的地へと向かった。

 そして────


「着いた〜!」


 俺たちの目的地、アイススケート会場に到着したことによって、一羽が大きな声でそう言った。

 アイススケート会場と言っても本格的な会場ではなく、子供から大人まで楽しめるというあくまでもカジュアルな会場だ。


「冬限定で毎年やってたけど結局一回も滑ったことなかったから、一回は滑ってみたかったんだよね!」

「お姉さんもスケートはやったこと無いから、どんな感じか楽しみだよ〜!」

「俺は、昔に何度かやったことがあります」

「そうなんだ〜!」

「じゃあ、上手に滑れなかったら色人に教えてもらってもいい?」

「あぁ、いつでも頼ってくれ」

「ありがとっ!」


 嬉しそうに言った七星を最後に、俺たちはスケート会場の中に入ると、アイススケート用の靴を借りて早速会場の中に足を踏み入れる。

 他の人も居るが、会場はかなり広大なため、最低限気をつけていればぶつかるようなことにはならないだろう。

 俺がそんなことを思っていると────


「何これ〜!水の中泳ぐのとは全然違うけど、地面泳いでるって感じで楽しい〜!」


 葵先輩は、そんな高らかな声を上げながら、もうほとんどマスターしたようにとても楽しそうに滑っていた。

 そんな葵先輩のことを見た、俺の隣で立ちながらバランスを取るのがやっとな様子の一羽が驚きながら言った。


「葵、スケートやったこと無いって言ってたよね?」

「言ってたな」

「……なんであんなに滑れてるの?それとも、私が運動神経悪いだけ?」

「いや、初めてならバランスを取れるだけでも上出来だ……葵先輩は水泳とかで脚もよく使うから、その応用といった形でスケートも滑れるのかもしれない」


 とは言っても、水泳をやっているからと言ってあそこまですぐにマスターに近い状態まで持っていける人物はそう居ないと思われるため、流石は葵先輩と言ったところだろう……だが。


「一羽は一羽のペースで良い、俺も教えるから、ゆっくり滑っていこう」

「っ……!うん!」


 一羽が嬉しそうな声色で頷くと、俺はそんな一羽に自らの両手を差し出して言う。


「じゃあ、この両手を握ってくれ……まずは、手を繋いだ状態で滑るところから始めてみよう」

「わ、わかった!」


 そう返事をして俺と両手を繋いだ一羽は、少し頬を赤く染める。


「今からゆっくり滑るから、一羽もそれに合わせて滑ってみてくれ……バランスを崩しても絶対に転倒させないから、その辺りのことは心配しなくて良い」

「ありがとう!やってみるね!」


 ということで、俺はゆっくりと後ろに滑ると、一羽は不安定ながらもどうにか滑ることができていた。


「こ、こう?」

「良い感じだ」

「……えへへ、色人に褒められたら、もっとできる気がしてきた!」


 そう言った一羽は、確かにそれから少しの間調子を上げてきた────が。


「きゃっ!」


 突然調子を上げてしまったが故に、帰ってバランスを崩して俺の方に倒れ込んでくる。

 俺は、そんな一羽のことを痛みが生じないように抱きとめて言った。


「大丈夫か?」

「っ!だ、大丈夫、ありがとう、色人」

「一羽が無事ならそれでいい」


 それから、俺が一羽のことを元の体勢に戻すと────直後。


「っ……?」


 背中に強い衝撃を感じたかと思えば、後ろから葵先輩の声が聞こえてきて言った。


「成功した〜!滑りながらその勢いでハグ〜!」


 そう言いながら、俺のことを抱きしめてきている葵先輩はその力を強めた。


「……もう、本当に完全にマスターしたみたいですね」

「うん!でも、私が一人で気持ち良く滑ってたら二人だけでイチャイチャしてるのが見えたから、私も色人くんとイチャイチャしたいな〜って思って!」

「私たち、イチャイチャしてるように見えた!?」

「それはもう、傍から見たらラブラブカップルだったよ〜」

「ラ、ラブラブ!?」


 葵先輩の言葉を聞いた一羽は、頬を赤く染めて照れた様子だった。

 その後、俺は相変わらずな二人に振り回されながらも、暗くなるまでの間二人と一緒にスケートをして楽しい時間を過ごした。

 こうして、二学期最後の日は終了し────俺たちが恋人になってから初めての長期休暇である、冬休みが始まった。

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