第145話 真霧の手料理

「ここがリビングだ、俺はこのリビングからも見えるそこのキッチンで料理をして来るから、二人はこのリビングで自由にしててくれ」


 玄関から、二人のことをリビングに案内すると俺はそう伝えた。

 すると、一羽が頷いて明るい声で言う。


「わかった!」

「私たち気長に待ってるから、色人くん怪我しないようにね?」

「はい、ありがとうございます」


 相変わらず楽しむ時は全力で楽しんでいるが、要所要所でこの人は年上の人なんだなと感じさせられる気遣いをしてくる葵先輩の優しさを感じながら、俺はキッチンへと向かった。

 二人が来る直前に食材は出し終えているから、後は切ってそれぞれを調理するだけだ。

 それからは、黙々と食材を切っていた俺だったが、ふとリビングから一羽と葵先輩の楽しそうな話し声が聞こえてくる。


「────でね?それがもう本当に大変だったの!」

「そんなことあるんだ……!そういう話だったら、私もこの前────」

「……」


 告白の返事をする前は、どちらかを選ぶことをせず二人を好きだなんて答えは、二人に受け入れられないだろうと考えていた。

 そして、それが俺の気持ちであることは間違いなかったが、果たしてそれが本当に一羽と葵先輩のためになるのか、わからなかった。

 が────二人があんなにも楽しそうに話しているこの光景が、間違いであるはずがない。

 俺は改めて、この選択をして良かったと思いながら、再度食材を切り始めると、続けて調理に移行した。

 そして、やがて二人分の料理が完成すると、俺は二人の前にそれを差し出す。

 すると、その料理を見た二人は大きく目を見開いた。


「い、色人……」

「こ、これって……」


 俺が差し出したのは、一羽の方にはソテー。

 葵先輩の方にはボロネーゼのパスタ。

 それについて、補足するように言う。


「二人が覚えてるかはわからないが、その料理は俺が二人とそれぞれ初めて出かけた時に一緒に食べた料理だ」

「もちろん覚えてるよ!忘れるわけないじゃん!」

「うん……大事な日だからね、絶対忘れないよ────それにしても」


 葵先輩は、続けて嬉しそうな表情になると明るい声で言った。


「色人くんも粋なことするね〜!初デートの時の料理をここで作って来るなんて!」

「うん!今までも大好きだったけど、こんなことされたらもっと大好きになっちゃって色人のことしか考えられなくなっちゃうよ!!」

「二人に初めて料理を振る舞うなら、初めて二人と一緒に食べた料理が良いと思っただけだ」

「だけって言うけど!初めてのデートで食べた料理を覚えてくれてる男の子なんて、多分ほとんど居ないよ!」

「だね……あはは、お姉さんって言っても、やっぱり大好きな色人くん相手にこういうことされちゃうと……ドキドキしちゃうね」

「俺がしたいと思ってこうしただけだったが、二人が喜んでくれたなら何よりだ……じゃあ、早速食べてみてくれ」

「うん!」

「食べる〜!」


 二人は楽しそうに返事をしてくると、それぞれ目の前にある料理を口にした────すると。

 二人は、料理を口に含みながら声にもならない声を上げると、料理を飲み込んでから言葉に勢いを付けて言った。


「何これ!すごい!!本当に美味しい!!どうやってこんなの作ったの!?お店より美味しいよ!!」

「美味しい〜!パスタの茹で具合もボロネーゼの味付けも絶妙で丁度麺に染み渡ってる感じだよ〜!噛み応えも良いし、すごく美味しい!!」

「そうか、食材や調味料を厳選した甲斐があったな」


 俺がそう呟くと、二人はそれぞれの料理を俺の方に差し出して来て言った。


「色人も!改めて完成したやつ食べてみて!!すごく美味しいから!!」

「こっちのも食べてみて!!すっごく美味しいよ!!」

「……あぁ、食べさせてもらおう」


 俺は、二人に差し出された料理を口に含むと────それらの自分で作った料理が、自らの手で食べるよりも何倍も美味しく感じられた。

 それから、俺が美味しいと感想を伝えると、二人はとても嬉しそうにしていて、そのまま俺の料理をとても美味しそうに完食してくれた。

 ……また、時間があったら二人に料理を振る舞うことにしよう。

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