第143話 新たな日常

 俺と一羽、葵先輩が恋人関係になった日の夜。

 三人で電話をしていると、一羽が言った。


『そうだ!せっかく付き合い始めたんだから、私色人にお弁当作ってあげたい!!』

『わ〜!それ良いね〜!お姉さんも、色人くんにお弁当作ってあげたいな〜』

「お弁当……二人分となると手間になると思うが、良いのか?」

『大好きな色人くんのために作るお弁当だったら、そんな手間も手間なんて感じないものなの!ね、一羽ちゃん!』

『うん!でも、私と葵先輩二人分のお弁当ってなると多いかな?』

『そこは、私と一羽ちゃんの二人で話し合って量調節したら良いんじゃないかな?』

『確かに!じゃあそうしよ!色人も、それで良い?』

「二人がそうしたいと言ってくれるなら、それで────いや……」


 今の俺の心情を表す言葉は、それで良いなんて言葉じゃないな。

 俺は一度口を閉ざすと、再度口を開き言葉を改めて言った。


「二人の作ってくれたお弁当、楽しみにしてる」

『っ……!』

『色人くんにそんなこと言われちゃったら、腕によりを掛けたお弁当作るしか無くなっちゃうね〜!』

『うん!絶対美味しいの作る!!』


 二人の活気ある声が電話越しに聞こえてくると、葵先輩が言った。


『……そうだ、恋人になったからって言うんだったら、私これからは毎朝二人と一緒に学校に登校したい!』

『っ!それ、めっちゃいい!!色人は?』

「俺も異論は無い」

『ありがと〜!じゃあ、待ち合わせ場所とかぱぱっと決めちゃおっか〜』


 それから、朝学校に登校するための待ち合わせ場所を、俺たちのそれぞれの家の中間地点に定めると、葵先輩が言う。


『これで待ち合わせ場所は決まったから、後は遅刻しない時間に集まるだけだね〜』

『色人と葵先輩の二人と登校できるとか、めっちゃ楽しみ!!』


 ────ということで、翌日の朝。

 俺は、昨日の夜電話で話し合った通り、二人との待ち合わせ場所へ向かった。

 すると、すでにそこにいた一羽と葵先輩が俺に気づいて挨拶をしてくる。


「あ!おはよ〜!色人くん!」

「おはよう!色人!」

「おはよう、一羽、葵先輩」


 俺が二人と同じように挨拶を返すと、二人は互いの顔を見合って笑顔を見せた。


「どうかしたのか?」

「ううん?色人が私たちのこと下の名前で呼んでくれるの、やっぱり嬉しいなって思って」

「うんうん、私も同じ!」

「そうか……じゃあ、学校に向かおう」

「うん!」

「だね〜」


 ということで、俺たちは三人で横並びになると、一緒に学校へと向かい始めた。

 ここまでは何も問題なく、昨日電話で話し合った通り────だったが。


「えへへ、色人〜」

「色人くん〜!」


 学校に向かい始めた直後、二人が歩きながら俺と腕を組んできた。

 俺はそのことに、少し心情を揺らしながらも言う。


「二人とも、登校する時ぐらい腕を組まなくても良いんじゃないか?」

「ダ〜メ!大好きな色人くんとは、どんな時でも身を寄せてたいものなの!」

「ね〜!」


 そう言うと、二人はさらに俺の腕を自らの身に抱き寄せるようにしてきた。


「っ……」


 それによって、俺は相変わらず恥ずかしさや照れ、嬉しさや恋愛感情といった複雑な心情を感じながらも、そのまま二人と一緒に学校に登校した。

 そして、廊下を歩いていると、周りから声が聞こえてくる。


「うおっ、何だあれ!」

「美男美女すぎんだろ……!」


 だが、二人はそんな声を全く気にしていないのか、ただただ幸せそうな表情を浮かべていた。

 そんな朝を過ごした俺は、昼休みになると────


「色人、あ〜ん」

「色人くん、あ〜ん」


 俺は、屋上のベンチで、一羽と葵先輩の作ってくれたお弁当を、食べ方に少し恥ずかしさを覚えながらも交互に食べさせてもらっていた。


「美味しい?色人」

「美味しい?色人くん」


 同時に聞いてくる二人に対して、俺は頷いて答える。


「あぁ、一羽の料理も葵先輩の料理も美味しい」

「良かった〜!」

「安心したよ〜!」


 その後、今度は俺だけでなく三人で一緒にお弁当を食べていると、一羽が言った。


「そうだ、料理って言ったら今度色人の家で色人の作ってくれた手料理食べさせてもらうって話だったんだけど、葵もどう?」

「良いの!?」

「当たり前だよ!ね、色人!!」

「あぁ、もちろんだ」

「じゃあ絶対行く〜!色人くんのお家で色人くんの手料理とか、お姉さん今から楽しみすぎるよ〜!」

「私も〜!」


 それからも楽しい雰囲気で一緒にお弁当を食べ終えると、一羽と葵先輩は俺と腕を組んできて、加えて俺の肩に自らの頭を置いてきた。


「……」


 これから、毎日こんな日常を過ごすのかと思えば、恥ずかしさや照れなどによって心労が絶えなそうだと感じた俺だったが────そんな日常を想像した時、俺は無意識の内に口角を上げていた。

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