第140話 修学旅行最終日

 ────修学旅行最終日。

 最終日と言っても、この修学旅行は二泊三日のため、この旅館の朝食を食べ終えたらあとは帰るだけだ。


「修学旅行、短かったようで短かったような〜」


 班で固まって朝食を食べていると、班員の男子生徒がそんなことをぼやいた。


「それ、短いしか言ってないし」

「体感一瞬だったんだから仕方ねえだろ!」

「まぁ、それだけ楽しかったってことなんじゃん?」

「そうなんだけどよ〜!」

「一羽は?楽しかった?」


 そう聞かれた七星は、一瞬反応が遅れた様子だったが、すぐにいつも通りの七星の様子で元気よく言った。


「え?う、うん!もちろん楽しかったよ!」

「良かった……はぁ、修学旅行、次があったら十泊十一日とかでも良くない?」

「語呂悪っ」

「気にするところ絶対そこじゃないから!大体、十泊とかしたら荷物────」


 最初だけ少し様子のおかしかった七星だったが、それからは今のようにいつも通り会話に入っており、それから俺たちは、修学旅行中にこの班で食べる最後の朝食を終えた。

 そして、荷物を持って旅館を後にすると、俺たちはいよいよ帰るべく帰りの新幹線に乗る。

 席は行きの時と同じで、左右で二席と三席で分かれている席のうち、俺と七星が右側の二席。

 細かく言えば、俺が窓際だ。

 新幹線が動き始めて少しすると、七星が言った。


「昨日のメッセージ、私と葵先輩の二人に話したいことがあるって……やっぱり、そういうことなんだよね?」

「……あぁ」


 昨日の就寝前二人に送ったメッセージでは、その話したいことの内容については触れていなかった。

 が、七星と水城先輩の二人に話したいことがあると伝えたため、それが告白の返事であることなどは二人とも容易に想像がついただろう。

 そして俺も、七星が朝食時に少しだけ様子がおかしかったのは、それが理由だと推測することができる。


「そっか〜!いつかは来るってわかってたけど、いざ本当にその時が来るって思うと……緊張っていうか、そんな言葉にすらできない感じになっちゃうね」


 そう言う七星に対して、俺は謝罪しておくべきことを口にする。


「本当に、いきなりになって悪かったと思ってる……だが、俺の中で、修学旅行を心置きなく楽しめて、かつできるだけ早く伝えたいというポイントを押さえた場合、このことを伝えるなら修学旅行終わりのこのタイミングしか無かった」

「あ、謝らなくていいよ!どっちにしてもいつかは来るってわかってたんだし、色人が私たちのことを考えてくれてるっていうのはよくわかってるから!……だけど」


 続けて、七星は隣に座る俺の手に、ゆっくりと自らの手を重ねて言う。


「もしかしたら、もう今日でこんなにも大好きな色人に触れられなくなって、大好きだってことも堂々と伝えられなくなるかもしれないって考えたら……どうしても、気持ちが落ち込んじゃって……」

「七星……」


 俺がその七星の手に視線を送ると、七星は明るい声色を作るようにして言った。


「せっかく色人も決心して返事してくれようとしてるのに、こんなこと言われても困るよね、ごめんね!今私が言ったこと、忘れてくれて良いから!」


 そう言って俺の手から自らの手を離そうとする七星。

 だったが、俺はそんな七星の手に自らの手を重ね直して言う。


「忘れない、七星の言葉を、俺が忘れるはずがない」

「っ……!色人……色人……!」


 絞り出したような声で俺の名前を呼ぶと、七星は俺の腕を抱きしめるようにして、俺にだけ聞こえる声で言った。


「大好き、大好きだよ、色人……大好き……」

「……」


 この七星の言葉に対して、今は何も答えられない。

 そのことに胸の痛みすら感じている俺だったが、どうにか二人に返事をするその時まで堪えるという決意でその痛みに堪えながら、俺の腕を抱きしめ続ける七星と共に新幹線で元居た駅まで帰宅した。

 そして、俺と七星は、新幹線が駅に着いたら二人に来て欲しいと送った場所、学校の屋上へ向かう。


「まだ葵先輩は来てないみたい、だね」

「そうだな」


 屋上に到着するも、水城先輩はまだ居なかったため、それから俺と七星は少しの間静かな時間を過ごす……すると、少ししてから屋上のドアが開き、そこから水城先輩が姿を現した。


「あれ、もしかして待たせちゃった?」

「全然です!」

「大丈夫です」

「良かった〜……それで色人くん、私たちに話したいことって?」


 聞かずともわかっていると思うが、改めてそう聞いてきた水城先輩の言葉に応じる形で、二人と向き直ると、俺はその問いに答えた。


「今から────二人に、告白の返事をさせてもらいます」

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