第139話 二人との楽しい時間

「お待たせ〜!色人くん!七星ちゃん!」


 修学旅行最後の自由時間。

 同じ班の俺と七星が一緒に待ち合わせ場所に到着してから少しした頃、水城先輩が待ち合わせ場所までやって来た。


「葵先輩!」


 すると、七星は水城先輩の方に近付くと、二人はハイタッチをしながら話し合う。


「七星ちゃん!修学旅行楽しんでる?」

「はい!すごく楽しんでます!葵先輩は?」

「私も楽しんでるよ〜!でも、やっぱり色人くんと七星ちゃんの二人と出かけるこの時間も本当に楽しみにしてたんだよね〜!」

「私もです!!」

「そっか〜!色人くんは?ちゃんと楽しみにしてくれてた?」

「はい」


 何も打算など無く、素直な気持ちでそう答えると、水城先輩は笑顔で言った。


「そうと決まれば!ずっとここに居ても仕方無いし、三人で街回っちゃおっか!」

「はい!!」


 ということで、俺たちは俺を真ん中として横並びになると、街の中を歩き始めた。

 すると、俺の右隣を歩いている水城先輩が、俺の横から顔を覗かせて言う。


「そうだ、昨日の自由時間って、色人くんと七星ちゃん二人で過ごしたんだよね?どんなことしたの?」

「えっ!?た、ただ普通に街回っただけです!!」

「怪しいね〜、本当はもっと何かしたんじゃない?


 そう聞かれた七星は、昨日のことを思い出しているのか、顔を赤くしていた。

 そして、少し間を空けてから言う。


「葵先輩に隠し事とかするの嫌なので、正直に言うと……い、色人とお団子食べさせ合ったりしました……!」

「色人くんと食べさせ合いっこ……!?何それ!!」


 そう驚いた水城先輩に対して、七星は今抱いている恥ずかしさを隠すためか、できるだけ間を作らないようにして口を開いて言った。


「あ、葵先輩も、今日の午前の自由時間の時色人と過ごしたんですよね?その……何かしたんですか?」

「私は、色人くんと手を繋ぎながら街を歩いたよ」

「色人と手を繋ぎながら街を……!?めっちゃ楽しそう……!!」


 二人がそんな会話をした後、少し間を空けてから水城先輩が言った。


「ねぇ、色人くん……色人くんが嫌じゃなかったら、今度は私たち二人と手を繋いだり、何か食べさせ合ったりしてくれないかな?」

「俺は嫌じゃないですけど……二人は、嫌なんじゃないですか?」

「私は、色人くんとご飯食べさせ合えて、可愛い七星ちゃんも一緒に居てくれるんだから、もちろん嫌なんかじゃないよ?」

「私も!色人と手繋いで街歩けて、葵先輩も一緒に居てくれるなら絶対楽しいから嫌なんかじゃないよ!」


 ……まだ二人に対する返事を伝えられていない俺に、二人とそんな時間を過ごす権利があるのか。

 それについての様々な考えを行き交っているが、この時間はこうして三人で楽しく過ごすことのできる最後の時間になるかもしれない時間。

 そう考えれば、俺に選択の余地など無かった。


「わかった、じゃあそうしよう」

「っ!やった〜!」

「色人くん優しい〜!じゃあ……えいっ!」


 そう言うと、水城先輩は俺の右手と自らの手を繋いできた。


「あ!わ、私も!」


 続けて、それを見た七星が、慌てた様子で俺の左手と自らの手を繋いでくる。

 すると、水城先輩は楽しそうな、七星は恥ずかしそうでありながらも幸せそうな表情になった。

 それから、俺たちは三人で手を繋ぎながら街を歩くと、色々なところ回り始めた。

 ────団子屋。


「色人くん、あ〜ん」


 そう言われながら水城先輩に差し出された団子を口に含んだ直後。


「私の愛情たっぷりの団子だよ〜」

「っ……」

「あはは、色人くん驚いてて可愛い〜」

「愛情たっぷり団子……!わ、私もしたいです!」

「うん!色人くんすっごく可愛い反応するから、七星ちゃんもしてあげて!


 ────抹茶専門店。


「っ!抹茶ってあんまり得意じゃ無かったですけど、ラテになると飲めちゃいますね!これハートのラテでめっちゃ可愛いですし!」

「そうなんだ、私も飲んでみていい?」

「はい!」


 それから、水城先輩は七星からその容器を受け取ってその抹茶ラテを喉に通して言った。


「確かに!これだと苦味みたいなのが消えてて、良い感じに飲めるね!」

「抹茶から苦味が消える……?……どんな味なのか気になるので、俺もちょっと買ってみようと思います」

「待って待って!せっかくここにあるんだから、ちょっとならこれで試しに飲んでみれば?良いかな?七星ちゃん」

「は、はい!もちろんです!」

「そうか、ありがとう」


 俺は水城先輩から渡された容器の飲み口に口を付けると、その抹茶ラテを喉に通した。


「なるほど……これは確かに、抹茶の苦味が苦手な人にとっては画期的だと言える」

「……」

「……」


 そう呟くと、二人は何故か頬を赤く染めながら、俺が口を付けた容器の飲み口の方に視線を送っていた。


「どうかしたのか?」

「う、ううんっ!」

「な、なんでもないよ?」


 その後も少しの間だけ、二人はどこか様子がおかしかった。

 ────写真撮影。


「やっぱり、こういうところで撮る写真って言ったらこの赤の鳥居の前だよね〜!」

「ですね!じゃあ、写真撮っちゃうので、真ん中の色人に寄りましょう!」

「色人くんに寄ることは大得意だから任せて!」


 そう言った二人は、俺と肩を触れ合わせるほどに距離を縮めてくる。

 すると、七星が聞いてきた。


「ねぇ、色人……腕とか組んじゃっても良いかな?」

「私も、今それ色人くんに聞こうと思ってたよ〜!」

「……あぁ、良い」

「っ!!」

「色人くん最高!!」


 二人は嬉しそうに声を上げると、俺のそれぞれの腕を自らに抱き寄せるようにして組んできた。

 それから、片手に持っているスマートフォンで画角調整を始めた七星は、やがて画角を調整し終えると大きな声で言った。


「撮ります!!」


 そのスマートフォンからシャッター音が聞こえてくると、俺たちの思い出がまた一つ記録として残された。

 こうして、二人との楽しい時間は過ぎていき……やがて自由時間が終わると、俺たちは旅館へと帰った。

 旅館に帰ってから、夕食を食べて、お風呂に入って、一日の振り返りを終えると、俺は就寝前、二人に明日話したいことがあるという旨のメッセージを送り────とうとう、俺たちの関係性を大きく左右することになる修学旅行最終日が始まった。

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