第137話 しちゃいたい
◇真霧side◇
振り返りをするべく、二人でそれぞれの椅子に座ると、俺たちは振り返り用のプリントとペンを机の上に置いた。
すると、その直後。
七星が、俺の顔を見て少し頬を赤く染めながら言う。
「色人……もうちょっと、近付いてもいい?」
「あぁ」
俺が短く返事をすると、七星は自分の座っている椅子を、椅子同士が触れ合うほどに近付けてきた。
「準備が整ったところで、早速二人で振り返りを始めるか」
「うん……!」
「じゃあ、今日最初に行った名所についてだが────」
それから、俺と七星は少しの間振り返りを行って、その内容をプリントに記して行った……が。
七星の頬がずっと赤かったため、俺はそのことを心配して口を開く。
「七星、頬が赤いようだが、もしかして温泉でのぼせでもしたのか?」
「えっ!?う、ううんっ!そういうわけじゃないよ!」
「本当か?」
「うん!心配してくれてありがとう……やっぱり、色人は優しいね……こんな状況でそんなに優しくされちゃったら、私……」
小さな声で何かを呟いた七星は、俺に身を寄せてくる。
色々なものを持参しているのか、同じ温泉上がりでも香りが全然違い、七星から甘い香りが漂ってきたと思った────その直後。
七星は、そのまま俺のことを抱きしめてきた。
「ごめんね、誰も見てない状況で二人きりってなると、どうしても色人のこと好きって気持ちが我慢できなくて……」
「謝ることじゃない」
「ダメだよ、色人……そんなに優しくされたら、私もっと……もっと、我慢できなくなっちゃいそう……」
そう言うと、七星は俺のことを抱きしめる力を強めると、見上げるようにして俺の目を見てきて言った。
「本当は、この雰囲気のまま色人とキスとかしちゃいたい……けど、私、ちゃんと我慢するよ……色人が返事をくれる時まで、ちゃんと我慢するから……」
「……悪い」
「色人は何も謝らなくていいよ……私は、こうして色人のことを抱きしめてられるだけで幸せだから……」
改めて俺のことを優しく抱きしめてくると、七星は少し間を空けてから言った。
「えへへ……本当に、ずっとこうしてたいな……ねぇ、振り返りって早く書けばあと何分ぐらいで書けるかな?」
「5分ぐらいだな」
「じゃあ、まだ時間あるし……もうちょっと、こうしてても良い?」
「あぁ、良い」
俺がそう伝えると、七星は嬉しそうに口元を結ぶと、俺のことを強く抱きしめ直してきた。
────俺が二人に答えを伝えるのは、この二泊三日の修学旅行の三日目。
正確には、修学旅行が終わった後のタイミングだ。
もし、事前に二人にそのことを伝えていたら、二人はそのことがプレッシャーとなって修学旅行を純粋に楽しむことができなくなるかもしれないため、そのことはまだ伝えていない。
だが……その時は、刻一刻と近付いている。
「……」
それから、俺は七星と身を触れる最後の時となるかもしれない時間を過ごすと、二人で振り返りを終えてから、班全員でトランプをして過ごした。
◇七星side◇
「じゃあね〜」
「また明日〜」
「おう!明日な!!」
男子部屋で振り返りを終えた三人は、就寝時間も近付いているため部屋を出ると、自室に向かって旅館内の廊下を歩き始めた。
それと同時に、七星の友達が口を開いて言う。
「真霧くんのポーカーフェイス強すぎない!?あんなの絶対勝てないじゃん!」
「確かに、ずっと上がり一番だったよね」
「そうそう!……それはそれとして────」
友達は顔をニヤニヤさせると、七星の顔を覗くようにして言った。
「一羽〜、真霧くんとはどうだったの〜?」
「え?ど、どうって?」
突然話を振られ動揺する七星に、もう一人の友達が言う。
「私たちがあそこまでお膳立てしたんだし、ちょっとぐらいは真霧くんと何かあったんでしょ?」
「っ!?べ、別に何も無いよ!!」
「本当かな〜?」
「本当!大体、私のこと色人の方に押したりあのスペースに連れて行ったり、いきなりすぎて超ビックリしたんだから!!」
「でも、結果的にそれで良かったでしょ?」
「え?そ……それは、まぁ……」
「あ!この反応、やっぱり絶対なんかしてる!!」
「これは夜の恋バナが盛り上がりそうだね」
「っ!だ、だから何もしてないってば!!」
それから、三人は部屋に戻って就寝時間になった後も、しばらくの間恋愛話に花を咲かせた。
こうして、修学旅行一日目が終わり、次は修学旅行二日目が始まろうとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます