第136話 色人の浴衣姿

◇七星side◇

 真霧たちの部屋の襖を友達が開けたことによって、七星はその部屋の中に居た真霧と目を合わせ、真霧の浴衣姿をその目に映す。

 その瞬間────


「っ!!」


 七星は、頬を赤く染めて声にもならない声を上げた。

 ────待って、待って、本当にかっこいい!!学校では制服で、普段はシンプルな感じの私服だから実際に浴衣着てるところなんて想像できなかったけど、本当にかっこよすぎない!?前帯可愛いし、首元ちょっと覗かせてるのとか反則!!

 七星がそんなことを思っていると知らず、もしくは知ってか、七星の友達二人が七星の背中を押して部屋に入ると、襖を閉じて真霧たちと一緒に座った。

 だが、相変わらず七星が直視はしないまでも、横目に映る真霧に胸を高鳴らせていると、七星の友達が言った。


「じゃあ、今から一日の振り返りするわけだけど、今日一日どうだった?」

「楽しかったぜ!!」

「振り返りって紙に書かないといけないんだから、楽しかっただけだったら絶対お返し食らうって!」

「そうは言うけど、楽しかった以外書く事無くね?」


 男子生徒がそう言うと、それに呼応するように真霧が口を開いて言う。


「修学旅行の修学っていう部分に重きを置いた振り返りにした方がいい、建物の構造に関する感想とか、今日学んだ歴史に関してとかな」


 ────ちょっと!今横目に色人が居るっていうだけでかなり来ちゃってるのに、声なんて聞いちゃったら……もう、本当にかっこいい!!


「なるほどね……じゃあ、とりあえず今からみんなでそれっぽいこと書いて、終わったらトランプでもしよ〜」

「おう〜!絶対負けねえぜ!!」


 それから、全員で修学旅行の振り返り用に渡されていたプリントとペンを取り出すと、そこに振り返りを書いていく……が。

 そんな中、プリントと見つめ合って一人固まってしまっている七星のことを見て、七星の友達が言った。


「一羽、手止まってるけど大丈夫?」

「えっ?あ、だ、大丈夫」


 プリントと向かい合っても、頭と目の端から真霧のことが離れず、集中することができない。

 そんな七星のことを見た七星の友達は────小さく口角を上げると、七星のことを真霧の方に押した。


「わっ!?」


 意識半分といった様子だった七星は、突然押されたことに驚いてそう声を上げるも、バランスを保とうと思わず真霧にしがみつく。

 すると、同時に真霧も七星のことを抱きとめて言った。


「大丈夫か?」

「っ……!う、うん!」


 顔を見上げた先に真霧の顔があり、思わず声を上げてしまうも、どうにかそう返事をする。

 ────近っ……!かっこいい……!それに、こうして浴衣越しにでも触れると、改めて大きくて硬くて、男の人の体って感じで……じゃ、じゃなくて!!


「いきなり何するの!?」


 七星のことを押した友達に、今の恥ずかしさなども押し隠すようにそう言うと、友達はニヤニヤしながら言った。


「え〜?一羽、どう書けばいいかわからないって感じで手止めてたから、私は真霧くんに教えてもらいながら書いたらって思っただけだよ?」

「だ、だからって────」

「そういうことなら、俺と一緒に振り返りながら書くか?」

「えっ……?」


 友達への怒りをぶつけたかった七星だったが、真霧からのその提案で怒りなど全て吹き飛ぶ。

 ────い、色人と、振り返り……!


「……う、うん、そうしよっかな」


 七星がそう答えると、続けてもう一人の七星の友達が言った。


「二人で振り返りするんだったら、私たち居ないところの方がしやすいと思うし、あの襖の奥の、ちょうど机と椅子が二個あるところでして来たら良いんじゃない?」

「え!?そ、それは────」

「はいはい、そうと決まったらあっち行ってね〜」


 そう言うと、友達は七星の背中を押して広縁の方へと連れていく。


「真霧くんも、あっちあっち!」


 続けて、もう一人の友達も真霧の背中を押して広縁の方へと連れて行き、やがて二人を広縁のスペースに連れて来終えると言った。


「大体20分後ぐらいになったらトランプで呼ぶから、それまではここで、二人でゆっくり振り返りしててね〜」


 そう言うと、一人の友達が襖の片方を閉めた。

 すると、もう一人の友達が襖に手を掛けて言った。


「20分経つまでは私たちはもちろん、あのバカもここに近付けさせないから、あんまり音立てなかったら何しても良いよ」

「ちょ、ちょっと待────」


 そう言いかけた七星だったが、友達は問答無用に、そしてどこか楽しそうな表情でその襖を閉めた。


「……」


 ────え?えええええ!?

 突然のことに驚きながらも、ただでさえ七星は、今日最初から胸を高鳴らせ続けているため────二人きり、密室空間、20分は誰も来ないという状況に、さらに胸を高鳴らせていた。

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