第135話 心の準備

◇七星side◇

 旅館に帰って、七星たちはこの地の歴史に関する座学を終えた。

 直後、生徒たちはそれぞれ自室に戻って荷物を置き、少しの間休憩するよう言われたため、七星たちも自室に戻ると荷物を置く。

 すると、七星の友達二人が言った。


「普通の学校の授業とかは超遅く感じるのに、こういう楽しい修学旅行とかに限って一日の終わりが早く感じるとかマジでやめて欲しいよね〜」

「それわかりすぎるんだけど!こういう時こそ時の流れ遅くしてって感じ!」

「そうだ……夜って言ったら、一羽準備とか大丈夫?」

「……え?準備……?」


 一瞬それがどういう意味かわからなかった七星だが、夜、準備という二つの単語からある答えを導き出すと、七星は慌てた様子で言った。


「え!?しゅ、修学旅行でそういうことにはならないかなって思って、何も準備してない!!え?もしかして、何か準備して来た方が良かったの?ど、どうしよう!もし私が何も準備してないせいで雰囲気壊しちゃったりしたら────」

「絶対変な誤解してると思うけど、そうじゃなくて、心の準備の話ね」

「こ……心の準備?」


 よりその言葉の意味がわからなくなった七星がそう聞き返すと、七星の友達は続けてそれを説明するようにして言った。


「ほら、この後旅館の広間で夕食食べた後で、男女別でお風呂に入るじゃん?」

「うん」

「で、お風呂入った後で、男子の部屋の方で一日の振り返りとかを班で固まってするわけだけど……お風呂上がったあとは、男女問わずこの旅館のに着替えることになるから、当然真霧くんも姿なんだよね」

「っ!色人の……浴衣姿!?」

「そうそう、朝からの一羽の様子見てたら、真霧くんの浴衣姿とか見ちゃったら精神ヤバい感じになっちゃわないかな〜って思って」


 そう言われた七星は、頭の中に真霧の浴衣姿を思い浮かべる────その直後。

 頬を赤く染めると、大きな声で言った。


「待って、無理無理!絶対変にニヤけちゃうし絶対変な声出しちゃう!」

「だよね〜」

「あんなにイケメンでしかも性格にまで惚れてるんだったら、そうなっちゃっても仕方無いんじゃない?」

「ほ、本当にどうしよ!?もしそこで変にドキドキしすぎたりしたら、キモいって思われたりしないかな!?」

「真霧くんそんなこと思うタイプじゃ無いと思うよ」

「まぁ、そうなったとしても、私たちが全力でフォローしてあげるって!ね」

「うん、任せて」

「二人とも……!ありがとう!!」


 それから少しの間、七星は友達二人と共に、どうにか真霧の浴衣姿を見ても心が乱されないように心を落ち着けることにした。

 ────その友達二人が、悪戯心を持っているとも知らずに。



◇真霧side◇

「ふぅ、良い湯だったぜ〜!」

「そうだな」


 班員の男子生徒と二人で、この旅館の名物と言える温泉を堪能させてもらうと、俺たちは温泉から上がって旅館から支給されている浴衣を着始めた。


「つうか、人の着替えとか見る趣味ねえから今まで知らなかったけど、真霧って顔も良いくせに体まで仕上がってたのかよ!さっき初めて見た時マジでビビったぜ!」

「一応ジムでトレーニングをしてるからな」

「マジか!意外……でもねえか、髪下ろしてた時の真霧だったら意外だったかも知んねえけど、今の真霧だったら納得だな!」


 続けて、男子生徒は言う。


「前まではクラスと一歩距離を置いてるって感じだったけど、今はこうして俺とも普通に話してくれて、近付いたって感じがして嬉しいぜ!」

「……そうか」

「そうだ!って、そろそろ次の奴らが入ってくる時間だから、早いとこ着替えねえとな!」

「あぁ」


 その後、俺たちは旅館用の浴衣に着替えると、二人で脱衣所から出た。


「……」


 本当に、俺は今に至るまでの間、遠回りをし過ぎてしまったな。

 隣を歩く男子生徒のことを横目にそんなことを思いながらも、俺はその男子生徒と一緒に二人で自室に戻った。

 そして、それから少しすると────


「ちょ、ちょっと待って!まだ私、心の準備が……!」

「いいからいいから」

「開けるよ〜」


 そんな声が聞こえてくると、それと同時に俺たちの部屋の襖が開き────そこから姿を見せた七星と、俺は目を交わらせた。

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