第134話 今が幸せだよ
班で固まって朝食を食べた後は、この地にある歴史ある建物などを回りながらも、それぞれの建物についてしっかりと勉強を行った。
そして、いよいよ自由行動になると、班員の男子生徒が大きな声で言う。
「くぅ〜!やっと自由行動だぜ!!ああいう、趣深い?建物とか見るのも楽しいけど、やっぱり修学旅行と言えば自由行動だよな!!」
「テンション上がり過ぎじゃ無い?ま、気持ちはわかるけど!」
「ていうか実際、こんなところで自由に過ごせるとか上がるよね〜」
男子生徒と七星の友達二人がそんなやり取りをしていると、七星が俺の方に一歩近づいて来て言った。
「前に修学旅行で行きたいところとか話し合ったけど、色人その中でも特に行きたいみたいなところある?」
「そうだな……俺が行きたいというよりは、七星が行きたいところに行きた────」
「真霧!!今から一緒に、この辺にあるっていう極上の唐揚げ────」
「ちょっ、バカ!空気読んで!」
「バ、バカ!?なんで俺がバカなんだよ!」
「はぁ……一羽、このバカは私たちの方でどうにかしとくから、そっちは二人で楽しんでね」
「う、うん!」
そんなやり取りが繰り広げられると「おい!なんで俺がバカなのか説明しろよ!」という具合に大きな声で騒いでいる男子生徒のことを、七星の友達二人が呆れながらも「はいはい、いいからいいから、早く歩いて」と、半強制的にといった感じで背中を押して行き、三人は俺たちの元を去って行った。
「なんだったんだ?」
「あ、あはは」
七星は苦笑しているが、少し間を空けてから、頬を赤く染めて笑顔で言った。
「何にしても────これで二人きりだね、色人」
「あぁ、そうだな」
「……さっきの話の続きだけど、色人はどこか行きたいところとかある?」
「さっき言いかけていたことだが、俺は七星が行きたいところに行きたい」
「っ……!」
俺がそう伝えると、七星は上擦った声を上げて目を見開いた。
そして、身を乗り出して言う。
「じゃあ、一緒に行こ!色人と行きたいところいっぱいあるから!」
「楽しみだ」
「私も!」
ということで、俺たちは二人で横並びになると、早速下は石造りの道、建物の屋根は瓦造りになっている和を感じる街を歩き始めた。
そして、歩き始めてすぐの場所で七星は足を止めて言った。
「あそこ団子屋さん!すっごく美味しくて前評判になってたんだって!遠いからまだ食べれてなかったんだけど、せっかくだから食べてみない?」
「そうしよう」
「やった〜!」
いつも楽しそうだが、修学旅行ということもあっていつもとは種類の違う楽しそうな雰囲気になっている七星と共にその店までやって来て、メニュー表を見る。
三色団子やみたらし団子は当然知っているが、チョコ味なんていうものがあって、そのことに少し驚かされながらも、俺はよもぎ、七星はきな粉の団子を購入して、店の横に付いているベンチに肩が触れ合うほどの距離で座った。
そして、互いに一つ目の団子を食べる。
「っ〜!美味しい〜!このもちもち感に、それを覆うようにあるきな粉の味!きな粉味の団子の良さを全て凝縮してる〜!」
「このよもぎも、噛めば噛むだけ味の濃さが増してとても美味しい」
「良いね〜!……そうだ、色人!シェアしようよ、シェア!」
「あぁ、わかった」
文化祭で水城先輩とワッフルを交換した時と同様という認識でそう返事をすると、俺は七星に串の取手の部分を渡そうとした────が、その直後。
「じゃあ色人、あ〜ん」
「……え?」
「だから、あ〜んだよ!お口開けて!私が食べさせてあげる!」
「……わかった」
俺は、何とも言えない感情がありながらも、不思議と七星とであれば嫌では無かったため、言われた通りにゆっくりと口を開く。
「じゃあ行くよ……!はい、あ〜ん!」
そう言うと、七星は俺に一つのきな粉の団子を食べさせてきて、頬を赤く染めながら言った。
「ど、どう?美味しい?」
「……あぁ、きな粉も美味しいな」
「でしょでしょ!?色人がそう言ってくれて良かった〜」
俺がきな粉の団子を食べ終えたところで、次は俺が七星の口元に団子を差し出して言う。
「それじゃあ七星、口を開けてくれ」
「……え?」
「七星が俺にしたことを俺もするから、口を開けてくれ」
「っ!?え、嘘、嘘!?い、色人が私にあ〜んしてくれるの!?」
「あぁ……嫌だったら別に────」
「絶対してもらう!!はい!あ〜ん!!」
そう言うと、七星は口を開けたため、俺は七星に一つのよもぎの団子を食べさせた。
「美味しいか?」
俺がそう聞くと、団子を食べ終えた七星はとても明るい笑顔で言った。
「うん!美味しい!ありがとう、色人!」
「……それなら良かった」
その後、俺たちが団子の感想を言い合いながらも団子を食べ終えると、右隣に座っている七星が俺の肩に頭を置いて言う。
「ねぇ、色人……私、今が幸せだよ……こうして大好きな色人と一緒に美味しいもの食べて、それについて話せて、本当に幸せ……ずっと、こんな時間が……大好きだよ、色人」
そう言うと、七星は俺の右腕を抱きしめてきた。
……俺のことを好きだと言ってくれる七星に、今すぐにでも言いたい言葉があったが、それはまだ伝えることができないため、俺はその七星からの言葉を静かに受け取った。
それから、俺たちは団子だけでなく、他にもたくさんのものを食べ、見て回ると、やがて一日目の自由行動が終わりを迎えようとしていたため、俺たちは旅館へと帰って行った。
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