第133話 感情

 宿泊先の旅館に到着すると、生徒たちはそれぞれ班内で男女に分かれ、自分達に割り当てられた部屋に荷物を置くことになった。

 そのため、今は真霧たちとは別行動で、この部屋に居るのは七星と七星の友達二人の、合計三人だ。


「うわ〜!すっごい広いじゃん!これが私たち三人の部屋ってマジ!?」

「しかも綺麗だしね、まさに和って感じ」


 二人の友達は豪華な部屋について色々と感想を話し合っていたが────七星の頭の中には、真霧のことしかなかった。

 ────色人の私の肩に触れてくれてた手、大きかったな……また手繋いだりしたいな……

 七星がそんなことばかりを考えていると、友達のうちの一人が、七星の方に近づいてきてニヤニヤしながら言った。


「それはそれとして────一羽〜、早速真霧くんと新幹線の中でイチャイチャしてたけど、今もう頭の中に真霧くんのことしかないんじゃない?」

「え、えっ!?」


 続けて、もう一人の友達が七星に近付いて来て言う。


「誤魔化すとか無理でしょ、こんな部屋来たら一番最初に反応しそうな一羽がぼーっとしてるんだから」

「そ、それは……し、仕方なくない!?好きな人とあんなことになったんだから!」


 友達二人には、七星の好きな人が真霧だということをもう伝えているためそう言うと、二人は頷いて言った。


「それは仕方ないんじゃん?」

「うん、仕方ないよ」


 賛同してくれる二人の言葉を聞いて、七星は少し心を落ち着ける。

 すると、友達のうちの一人が言った。


「一羽って、真霧くんと二人で過ごしたい感じなんだよね?」

「めっちゃ過ごしたい!!」

「それなら、私たちが手伝ってあげるよ、ね」

「うん!あ、でも一羽、一応言っとくけど、今日真霧くんと良い感じになったからって夜とか調子乗って変なことしない方がいいよ?」

「っ!そんなことしないから!!」


 そう大きな声で否定する七星に、二人の友達は笑い声を上げた。

 そして、荷物を置き終えたところで部屋を出ると、三人で一緒に朝食の場である旅館の広間へと向かった。



◇真霧side◇

「あんな部屋を俺ら二人だけで使えるとか、流石特高って感じだよな〜」

「そうだな」


 荷物だけ置いて部屋を出ると、俺たちは軽く部屋についての感想を話した。

 ここの旅館は見るからにグレードの高い温泉旅館で、まず普通の高校生の修学旅行で宿泊するような旅館で無いことだけは間違いない。

 俺がそんなことを思っていると、班員の男子生徒が大きな声を出して言った。


「おわっ!財布部屋に忘れた!悪りい真霧、ちっとここで待っててくんねえか?」

「わかった」

「恩に着るぜ!すぐ戻るからな!!」


 そう言うと、男子生徒は早歩きで来た道を引き返して言った。

 そして、俺がここで大人しく待っていると────


「あれ、色人くん!?」


 近くにある階段から、水城先輩が降りてきた。

 水城先輩は、一緒に行動していた女子生徒に「ごめん、ちょっと先行ってて!すぐ行くから!」と伝えると、俺の元までやって来た。


「こんなところで会うとは思わなかったな〜!もしかして、私が来るかもって思ってここで立ち止まって待っててくれたの?」

「いえ、同じ班のクラスメイトが財布を忘れたらしいので、ここで戻ってくるのを待ってました」

「つまり、私を待っててくれたってことだね!嬉しいな〜!そんな嬉しいことしてくれちゃう色人くんには、お姉さんからのハグをプレゼントしてあげる!」


 そう言うと、水城先輩は俺のことを正面から抱きしめてきて続けて言った。


「はぁ、私も七星ちゃんと一緒で一年生だったら、自由行動とかも一緒に行動できたのに、今日は自由行動の時間被らないもんね〜」

「そうですね……でも、約束通り明日は一緒に行動しましょう」

「っ!うん!」


 それから、水城先輩はしばらくの間俺のことを抱きしめると、やがて俺から離れて言った。


「じゃあね、色人くん!また明日!」

「はい、また明日」


 そう返事をすると、水城先輩は嬉しそうにしながら俺に背を向けて、この場を去って行った。

 それから少しした頃。


「待たせたな!ちゃんと取ってきたぜ!!」

「あぁ、なら行こう」

「おう!!」


 班員の男子生徒が財布を取って戻ってきたため、俺たちは再度広間へ向けて足を進めた。

 ────水城先輩に抱きしめられること。

 俺は水城先輩と出会ったばかりの時、そのことに対して、どちらかと言えば不快感のようなものを抱いていた。

 だが、今は……


「……」


 もはや、俺のこの感情は抑えるのが難しいと感じるほどに、大きなものとなっているらしい。

 この修学旅行を七星と水城先輩の二人と楽しむことも当然楽しみだ。

 が……早く、早く────この気持ちを、二人に伝えたい。

 そんな感情が、俺の中でとても大きなものとなっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る