第132話 密着
新幹線に乗り込んだ俺たちが事前に決めていた通りの席に座った直後、早速新幹線は目的地へ向けて進み始めた。
新幹線の座席は右側が二席、左側が三席と左右で分かれており、俺と七星はそのうちの右側の二席に座っている。
窓際席の俺が、現在進行形で走っている新幹線の窓から見える移り行く景色を何となく見ていると、七星が俺に向けて言った。
「色人!景色どんな感じ?」
「まだ街っていう感じだが、奥にある山の木の葉が落ち葉色になっていて、季節の移ろいを感じるな」
「そっか、もう11月だもんね!私も落ち葉の山見たい!見ていい?」
「あぁ」
今回の修学旅行地は和の観光名所代表といった場所で、そこに行けば落ち葉なんていくらでも見られると思うが、こうして遠くから落ち葉の山を見られる機会は早々無いかもしれないため、見たいと思うのはごく自然なことだろう。
そんなことを思いながら、俺は顔を後ろに引いて七星にも窓からの景色が見えるようにする。
そして、七星も顔を覗き込むようにする……が。
「街は見えるけど、奥にある山はここからじゃ見えなさそう〜」
「なら、もっと近付いて見たら良い」
「うん!」
そう言うと、七星は窓際に顔を近付けようと、体も少し俺の方に寄せてくる。
窓はともかく、俺との顔の距離はかなりの至近距離になっているが、七星は今窓からの景色を見ることが目的であるため、余計なことは言わない。
「えっと……あ!見えた!本当だ、落ち葉────」
そう言いかけた七星だったが、俺の方に体を寄せて来ていたため、新幹線の微弱な揺れによってバランスを崩しかける。
だが、俺はそんな七星の左肩を抱きとめて、バランスを崩すのを防いで言う。
「大丈夫か?」
「っ……!う……うん、大丈夫!ありがと……!」
「そうか」
頬を赤く染めて言う七星に俺がそう返すと、七星は続けて言った。
「だけど、色人がこうしててくれないと、窓の景色見たいってなった時、またバランス崩しちゃうかもしれないから……も、もうちょっとだけ、こうしててくれない?」
「わかった」
そう返事をした俺だったが────七星はもうちょっとだけと言い続け、途中から俺も離していいかを聞くのをやめると、新幹線が目的の駅に着くまでの間、俺は七星の肩を抱きとめ続けた。
加えて、移り行く窓の景色も二人で楽しめたため、とても良い時間だったと言える。
そして、新幹線が目的の駅に着いたため新幹線から降りると、班員の男子生徒が大きな声で言った。
「着いたぜ〜!秋の修学旅行!この駅からも和って感じの香りがするな〜!」
「……」
この駅にはまだ和なんて要素は無いと思うが、どうやらこの男子生徒はその香りを感じるらしく、空気が美味しいとでも言うように大きく息を吸っている。
俺がそんな様子を見ていると、七星が俺に向けて頬を赤く染めて言った。
「色人のおかげでここに着くまでの間も楽しかったけど、やっぱり修学旅行は着いてからが本番だよね!」
「そうだな」
七星の言う通り着くまでも楽しかったが、修学旅行はやはり着いてからが本番のため、俺は改めて気持ちを切り替えると、班員たちと一緒に宿泊先の旅館へと向かうことにした。
◇七星side◇
真霧たちと共に、宿泊先である旅館に向けて歩いている七星は────修学旅行開始早々、信じられないほどに胸を高鳴らせていた。
────ど、どうしよう!色人の大きな手で私の肩抱きとめてくれて、体も結構密着してて……あんなのドキドキしちゃうに決まってるじゃん!
そう思いながら、七星は隣を歩く真霧の横顔を見る。
「……」
その瞬間、七星は心拍数を高めると、心の中で叫ぶ。
────あ〜!もう!なんでこんなにかっこ良いの!?新幹線でのこともあって、色人の顔見るだけでドキドキしちゃうじゃん!!あ〜!もう!色人!大好き!!
この思いを今すぐにでも真霧に伝えたい七星だったが、今は周囲に班員やクラスメイトも居るという状況のため、そんなことはできなかった。
────早く……色人と二人になりたいな。
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