第130話 水族館
以前の屋上のベンチで昼食を食べていた時と同様。
俺を真ん中にして、右に七星、左に水城先輩という並びで水族館へ向けて歩いていると、水城先輩が言った。
「前、七星ちゃんのオススメしてくれた飲食店に三人で行ったりしたことはあったけど、こうして三人でちゃんと出かけるっていうのは何気に初めてだね〜」
「それ、私も思ってました!本当にめちゃくちゃ楽しみです!ていうか……」
水城先輩と話していた七星は、俺の方をチラッと見て言った。
「色人、今日は髪上げて来たんだ!」
「あぁ、せっかくの休日だから、なんとなく気分を上げようと思ってな」
「良いね!髪上げたら色人のカッコよさが全開って感じで、私本当に大好きなんだ〜!今となってはどんな色人でも大好きだけど、私が最初に好きになったのもその色人だったからね」
七星が頬を赤く染めながらそう呟くと、俺の左に居る水城先輩が俺の横から顔を覗かせるようにして七星の方を見て言った。
「七星ちゃん、色人くんのこと大好きだね〜」
「はい!」
七星が即答すると、水城先輩が少し間を空けてから嬉しそうな表情で言った。
「私も色人くんのこと大好きなんだけど……最近、大好きな色人くんのことを大好きな七星ちゃんが好きになってくれてることが、嬉しいんだよね」
「わかります……大好きな人が大好きな人を好きになってるって、良いですよね!」
「そうそう!……この時間が、ずっと続いたら良いんだけどね」
「そう、ですね」
「……」
「……」
ずっと喋っていた二人の間に沈黙が訪れると、その少しの沈黙の後で水城先輩が静かに言った。
「なんか、私のせいでしんみりさせちゃったね?ごめんね」
「い、いえ!私もなんか変に黙っちゃってすみません!話変わるんですけど、私今日行く水族館でめちゃくちゃ見たい魚が居て────」
それからは、いつも通りの七星と水城先輩の会話で、流れるように次々と話題が移り変わって行った。
「……」
────この時間がずっと続く。
そんなことは、常識的に考えて不可能なことだ。
二人が告白をした相手は同一人物で、その返事をいつまでも先延ばしにできない以上、その返事をしなければ必ずやって来る。
そして、その時になれば、二人のどちらかが涙を流すことになる。
それによって七星と水城先輩の仲の良さは変わらないかもしれないが、今のように俺も含めた三人で過ごす時間となれば、間違いなく変化は起きる。
三人のうち二人が恋人同士になる以上、今と同じようにはいかないからだ。
だから、こんな三人で楽しく過ごす時間がずっと続くなんていうことはあり得ない……あり得ないが、それでも────
「着いた〜!」
俺がそんなことを思っていると、到着した水族館前で、七星がそう声を上げた。
「思ったよりも大きいね〜!全部回れるかな?」
「三人で回ってたら、楽しくて一瞬で回れちゃうと思いますよ!」
「だね!じゃあ入っちゃおっか!」
「はい!」
「はい」
ということで、俺たち三人は早速目の前にある水族館の中に入ると────それらの中を回り始めた。
「────見て!あの魚、泳ぐのめちゃくちゃ早いよ!?」
「うわ、本当ですね!」
「参考にしたら、私ももっとタイム伸びるかな〜?」
「……参考にしないほうが伸びると思います」
続けて。
「────あの魚の群れ、すっごく綺麗!」
「水族館って感じだね〜」
「ですね!二人とこんなの見れて、私超楽しいです!」
「私も〜!」
「そうだな」
そして、最後に。
「────水中トンネルだ〜!」
「三人で写真撮りましょ!写真!」
「良いね〜!撮ろ撮ろ!」
ということで、俺たちは人通りが無い隙を狙って水中トンネルの中央へ移動すると、写真を撮ることになった。
「葵先輩、もうちょっと色人の方寄れますか?」
「うん!」
「ありがとうございます!私も寄って……撮ります!」
画角調整を終えた七星がそう言うと、そのスマートフォンからシャッター音が聞こえてきた。
「見せて見せて!」
「はい!」
そう言うと、七星は自らのスマートフォンに先ほど撮った写真を映し出した。
写真の左側には笑顔の七星が、右側には笑顔の水城先輩が……そして、写真中央には────
「え!色人の口角ちょっと上がってる!」
「本当だ〜!珍しいね〜!」
二人ほどではないが、普段あまり笑顔を作らない俺が、自然と口角を上げている姿があった。
「……」
俺は、自らの口角の上がっている顔を見ながら思う。
────今日二人と水族館を過ごしたことで、俺の二人への返事は決まった。
例えこれが二人に受け入れられなかったとしても、それが俺の気持ちなのだから、もはやどうすることもできない。
その後、俺たちは三人で水族館を出ると、一緒にご飯を食べて、少し街の中を歩き、とても楽しい一日を過ごし終えると今日は解散することとなった。
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