第126話 関係性

 昼休みになると、俺と七星は二人で昼食を食べるべく屋上へとやって来た。

 元々、わざわざ屋上まで来る生徒は少なかったが、今はそろそろ肌寒くなって来ている季節でもあるため余計に誰も足を運ばないのか、屋上には俺たちしかいない。

 二人で隣り合わせになってベンチに座ると、俺たちはそれぞれ持参しているお弁当箱を開いて食べ始める。


「ねぇねぇ、私修学旅行楽しみすぎてやばい!色人と同じ班とか本当に嬉しすぎて、修学旅行のこと考えるたびにテンション上がっちゃう!」

「そうか」

「うん!あ〜!色人と行きたいところいっぱいありすぎて、本当どこ回るか迷っちゃってるんだよね〜!」


 そんな雑談をしながら昼食を食べ進めていると、自らのお弁当箱を視界に収めた七星は、頬を赤く染めて、先ほどまでと雰囲気を変えて言った。


「そうだ……あのね?色人」


 話しかけられたため、俺は一度昼食を食べる手を止めると、七星の方を向く。

 すると、七星は恥ずかしそうに頬を赤く染め、目を少しだけ泳がせながら言った。


「その……今日、色人にお弁当作ってあげよっかなって悩んだんだけど、流石にそれはちょっと重いし、色人も自分でお弁当持ってきてると思ってやめて……でも、何か色人のために作りたいなって思って、小さいハンバーグ作って来たんだけど……良かったら、食べてくれない?」

「俺のために……?そういうことなら、食べさせてもらおう」

「ほ、本当に!?」

「あぁ、わざわざ俺のために作ってくれたなら、俺がそれを食べない理由はない」

「っ!あ、ありがとう!」


 そう言うと、七星は手に持っている箸でその小さなハンバーグを挟むと、それを俺の弁当箱に移そうとしてきた────が、その手を途中で止める。


「七星?どうかしたのか?」


 俺がその七星の行動に疑問を抱いてそう投げかけると、七星は先ほどよりも頬を赤く染めて、そのハンバーグを挟んでいる箸を俺の口元に差し出してきて、恥ずかしそうにしながら言った。


「い、色人……あ……あ〜ん」

「……あ〜ん?」


 聞き慣れない言葉に思わず聞き返すと、七星は大きな声で言った。


「だ、だから!口開けて!私が色人にあ〜んして食べさせてあげるから!」


 よくわからないが、七星の気迫が凄かったため、俺は言われるがままに口を開く。

 すると、七星は小さく嬉しそうな声を上げてから、ゆっくり俺の口元に小さなハンバーグを近付け────そのハンバーグを俺の口の中に入れた。


「お……美味しい?」


 食べ方だけは気に掛かったが、味は……


「美味しい」

「っ!良かった〜!」


 俺が思った感想をそのまま口にすると、七星は嬉しそうに声を上げた。

 そして、続けて言う。


「そうだ!また今度、私の家来て私の料理食べてよ!」

「あぁ……前にも言ってたが、良いのか?」

「うん!っていうか……私が、もっとたくさん色人に食べさせてあげたいから」


 七星は、頬を赤く染めて言った。


「……そういうことなら、今度また食べさせてもらいに行くとしよう」

「っ!やった〜!」


 俺が食べさせてもらう立場だというのに、七星は心底嬉しそうに声を上げた。

 そして、俺はふと思ったことを言う。


「……だが、俺ばっかりもらっても悪いからな、今度時間がある時にでも、俺の家で七星に料理を振る舞おう」

「い、色人の家で!?」


 俺がただもらってばかりでは申し訳ないというつもりでそう言うと、七星は何故か驚いた声を上げた。


「あぁ、料理をするなら自分の家の方が物の配置とかがわかっていてやりやす────」


 と言いかけたところで、俺は今の俺と七星の関係性を思い出して一度口を閉ざす。

 それから、少し間を空けて言った。


「悪い、他意は無かったが、今の俺たちの関係性を考えれば意味が生まれるな……忘れてく────」

「う、ううん!私こそ、変に反応しちゃってごめん!色人が料理作ってくれるっていうなら、私も色人の料理食べてみたい!」

「……そうか、なら、今度また日程を合わせよう」

「……うん!」


 それから、俺たちが互いにあと少し残っていたお弁当を食べ終えると、七星が頬を赤く染めて小さく口角を上げた。


「……どうかしたのか?」

「ううん、ただ……さっきの会話、今までの色人だったら、『料理をするなら自分の家の方が良いと思ったんだが、何か問題だったか?』みたいな感じに言ってそうだったけど、今は私がどんなこと想像しちゃったのかまで汲んでくれて、それを汲めるのも色人が私のことを異性として意識してくれてるからなんだって思ったら、なんていうか……私たちの関係が、また一つ変わったんだって改めて実感できて、そのことが嬉しかったの」

「……」


 俺たちの関係が、一つ変わった。

 そして、おそらく今後も一つ、また一つと変わっていく。


「色人……大好き」


 だが、俺は────今、隣で明るい笑顔を俺に向けてそう言ってくれる七星の笑顔だけは、ずっと変わらないで居て欲しいと感じた。

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