第125話 安堵
しばらくの間抱きしめ合い続けた俺と水城先輩は、そろそろ他の生徒たちが登校してくる時間になると、抱きしめ合うのをやめて二人で俺のクラスの教室へと向かい始めた……まだ俺と話したいという理由と、七星とも話したいという理由で、水城先輩もついて来ているらしい。
そして、二人で教室の中に入ると────
「あ、色人────と、葵先輩!?」
まだほとんど誰も登校してきて居ない中、すでにそこに居た七星が俺たちに気付いてそう声を出すと、慌てて俺たちの方に駆け寄ってきた。
「ど、どうして色人と葵先輩が一緒に登校してるんですか!?」
「わ〜!七星ちゃんの色人くんの呼び方が、苗字から下の名前になってる〜!色人くんに聞いたけど、っていうことは本当にそうなんだね〜」
「え?色人に聞いた……?」
おそらく今から水城先輩に色々と報告する予定だったであろう七星が困惑した様子でそう声を漏らすと、俺はそんな七星に伝える。
「あぁ、こんなにややこしいことになったのは偏に俺のせいだから、七星と一緒にじゃなくて俺一人で水城先輩に事情を説明するべきだと判断して、さっき水城先輩に話さないといけないことを全部話してきた」
「え!?じゃ、じゃあ────」
「うん、七星ちゃんが私と同じく色人くんのことが好きだってことも、私はもう知ってるよ?」
「っ……!?」
「悪いな、本人の居ない場でそのことを伝えるのもどうかと思ったんだが、そこも含めて俺の話すべきことだと思ったんだ」
「元々伝えるつもりだったからそれは全然良いんだけど、好きな人知られてるのって普通に恥ずかしい〜!!」
七星が頬を赤く染めて、今の言葉通り恥ずかしそうにしていると、水城先輩が大きな声で言った。
「大丈夫だよ、私も色人くんのこと大好きだから!ていうか、色人くんって罪な男の子だよね〜、かっこよくて優しくて、好きにならない方が難しいのに本人は全然自覚無いなんて」
「っ!そうなんです!普段落ち着いてるって思ったら、ふとした時に優しくされて気付いたら────」
……同じ相手のことを好きになっているとわかってどんな空気感になるのかと思えば、二人は楽しそうに話し始めた。
「……」
なんだか少し気が抜けながらも、楽しそうにしている二人のことを見て、俺は正直心の底から安堵すると、その思いのまま自らの席に座った。
すると、二人は楽しそうに話をしながら俺についてきて、しばらく話をし続けてから言う。
「まさか七星ちゃんと同じ男の子のことを好きになって、その男の子の魅力についてこんなに楽しく話し合えるなんて思ってなかったよ〜」
「私もです!誰かを好きになったことなんて今まで無かったので、同じ人を好きな人として話し合うとかもしたことなかったんですけど、その相手が葵先輩だからっていうのもあってすごく楽しいです!」
「私も〜!」
俺が静かにそんな二人のことを見ていると、水城先輩が俺の方を向いて言った。
「ね、色人くん……言ったでしょ?私が大好きな色人くんのことを嫌いになるはずないし、私と七星ちゃんが仲悪くなったりするはずもないって」
「っ……そう、ですね」
そう答えると、七星が困惑した様子で言った。
「え?何の話ですか?」
「今だからわかることだけど、色人くんは、私と七星ちゃんの好きな人が同じ人だってわかった後で、私と七星ちゃんに仲悪くなって欲しくないって思ったみたいで、前私に色人くんのことは嫌いになっても七星ちゃんとはずっと仲良く居続けて欲しいってお願いしてきたの」
「何それ!?私たちがそんなことで仲悪くなったりするわけないじゃん!!」
「そうだったみたいだな……余計な心配をして悪かった」
俺が二人にそう謝罪すると、二人は少し間を空けてから優しい声色で言った。
「別に、謝らなくてもいいよ……そんな色人だから、私は好きになったんだもん」
「そうだね……それもまた、色人くんの魅力の一つだね」
「……ありがとう」
俺が、そう言ってくれる二人に感謝を伝えると、二人はとても優しく笑った。
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