第124話 色人くんのバカ!!

◇真霧side◇

 月曜日の朝。

 まだ部活の朝練をしている生徒以外は誰も登校していないような時間に、俺は一人学校の屋上に立っていた。

 その理由は────


『水城先輩、話したいことがあるので、月曜日の朝、できたら普通の生徒が登校し出す前の時間に学校の屋上に来て欲しいです』


 というメッセージを、俺が二日前の夜、七星の家から帰った後で水城先輩に送ったからだ。

 水城先輩はそれに快諾の旨の返事をしてくれたため、もう少ししたら来るだろう。


「……」


 二日前の土曜日、七星は「こうなったら月曜日学校に登校した時、ちゃんと葵先輩に報告しないといけないね〜」と言っていた。

 確かに色々なことを水城先輩には伝えないといけないが、それらは全て俺が蒔いたもの……だから、七星と一緒に報告するのではなく、俺一人で水城先輩に報告すべきだと判断して今に至る。

 そう思いながら俺が静かに水城先輩が来るのを待っていると────やがて、屋上のドアが開いてその人は姿を現した。


「あれ、早く来たつもりなのにもう着いてる〜!もしかして待たせちゃった?」

「いえ、俺も今来たところなので」

「なら良かった〜!あ、色人くん衣替えしてる!やっぱり今日だよね〜、私も今日今までと比べて寒くなってたから、衣替えしてきちゃったよ〜」

「……そうみたいですね」


 相変わらず元気な水城先輩と向かい合うと、水城先輩は体を前に傾けて言った。


「冬服になると、私のボディラインとか胸の形とかわかりにくくなって、色人くんにとっては残念かな?なんて────今はそんな感じの雰囲気じゃないよね」


 朝、他の生徒が誰も登校していないような時間に学校の屋上に呼び出されているということからも、俺が今からする話が軽いもので無いことは、水城先輩にも察しがついているらしい。

 俺は、水城先輩が落ち着いた雰囲気になったところで、早速本題に入る。


「今から俺がする話のせいで、水城先輩のことを不快にさせてしまうかもしれません……でも、これは俺の口から伝えないといけないことなので、ちゃんと伝えさせてもらいま────」

「ちょ、ちょっと待って!」


 俺がそう言いかけた時、水城先輩は右手を前に出して俺の言葉に待ったをかける。


「……どうかしましたか?」


 俺がそう聞くと、水城先輩は珍しく少し不安そうな雰囲気で言った。


「ご、ごめんね、君に伝えたいことがあるって言われた二日前から、ずっと覚悟はしてたんだけど……いざ本当にそれが現実になるって思うと、ちょっと……本当、ごめん、ちょっとだけ待って」

「はい」

「……ありがとう」


 俺がそう返事をすると、水城先輩は俺に背を向けた。

 ……覚悟?

 ……よくわからなかったが、水城先輩が今までに無い雰囲気を放っていたため、俺は言われた通り話をするのを待つことにした。


「お、お待たせ、もう……大丈夫」


 俺と向き合った水城先輩は、そう言いながらもやはりどこかに不安の色が窺えた……一体何をそんなに不安に思っているのか、相変わらずわからなかったけど、伝えても良いということらしいため俺は遠慮なく口を開いて言う。


「じゃあ、俺の話したいことを話させてもらいます」

「……うん」

「話すと長くなるんですけど、実は────」


 それから、俺は学校で七星と関わっていたら目立つからと、七星のことを助けた時に霧真人色という偽名を名乗り、その霧真人色という存在で七星と関わっていたこと、そして、七星がその霧真人色のことを好きになったこと、その霧真人色の正体が実は俺であるということを土曜日に七星に伝えたことを水城先輩に話した。


「────つまり、水城先輩と七星は……同じ相手に恋愛感情を抱いてるってことです……俺のせいでこんなにややこしいことになって、本当にすみません」


 全てを伝えた後、俺はそう話をまとめて謝罪した。

 今から水城先輩に何を言われても全て受け入れる────つもりだったが。


「え……それだけ?」


 水城先輩は、目を丸くして瞬きしてそう言った。

 ……だけ?


「……そうですけど、だけ、で片付けられることじゃ無いと思います」


 俺が今抱いた率直な言葉を口にすると────水城先輩は、目を大きく見開くと、俺に抱きついてきて、大きな声で言った。


「色人くんのバカ!!」

「え……?」


 予想外のことを言われて俺がとても困惑していると、水城先輩は言った。


「私、色人くんがこんな時間に屋上で話したいことがあるって言うから、もしかしたら私振られるのかなってずっとずっと考えてて……とにかく、本当に、本当に不安だったんだから!!」


 確かに、告白の返事を待っているという状況で、俺のあのメッセージを見たら告白の返事をされると思うのは至極当然だし、俺の雰囲気や言葉からもそう誤解してしまうのも無理はない────どころか、事前に「不快にさせてしまうかもしれません」なんて伝えていたため、水城先輩からすれば今から振られるとしか思えなかっただろう……悪いことをしたな。

 俺は、俺に抱きつきながら不安だったと声を漏らす水城先輩のことを抱きしめ返して言う。


「すみません、水城先輩……もう少し水城先輩の心境を考えて、メッセージや言葉を選ぶべきでした」


 俺がそう謝罪すると、水城先輩は小さく笑って言う。


「良いよ……でも、あと少しだけこうしててくれるかな?大好きな君と抱きしめ合うの、お姉さん、大好きだから」

「……わかりました」


 その後、俺と水城先輩は、誰も居ない校舎の屋上で、しばらくの間抱きしめ合い続けた。



 この物語の連載を始めてから四ヶ月が経過しました!

 この四ヶ月の間に、本当にたくさんのいいねや☆、応援コメントなどを頂き、とても嬉しく思っています!

 第124話までこの物語をお読みくださっているあなたのこの物語への感想などを、今一度いいねや☆、応援コメントや感想レビューなどで教えていただけると本当に嬉しいです!

 作者は今後もこの物語を楽しく描かせていただこうと思いますので、この物語をここまでお読みくださっているあなたも、最後までお楽しみいただけると幸いです!

 今後も応援よろしくお願いします!

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