第122話 私と付き合って!!

 しばらくの間抱きしめ合うと、俺は七星のことを抱きしめるのをやめる。

 すると、七星が聞いてきた。


「もう良いんですか……?」

「……あぁ、悪いな」

「いえ……人色さん、普段同い年に見えないぐらい落ち着いてるので、むしろもっと甘えてくれても良いぐらいですよ!」


 そう言いながら、七星も俺のことを抱きしめるのをやめると、続けて言った。


「そういえば、人色さんっていう名前が偽名なんだったら、呼び方って変えた方が良いですか?」

「どっちでもいい」

「え〜!悩んじゃいます!人色さんじゃ無いなら、色人さん……?それとも────」


 続けて、七星は頬を赤く染めて、どこか恥ずかしそうにしながら言った。


「色人……とか?」

「七星がそう呼びたいなら、それでもいい」


 俺がそう答えると、七星は小さな声で呟き始めた。


「下の名前で呼び捨て……!?それは流石にいきなり過ぎない……?で、でも、せっかくこうして秘密を打ち明けてくれたんだし、良いのかな……?良いよね……?」


 七星は自らにそう問いかけると、何度か頷いてから大きな声で言った。


「じゃ、じゃあ、これからは人色さんのこと、色人って呼びます……!」

「わかった……だが、下の名前を呼び捨てされてるのに、敬語で話されてるのはむず痒い感じがするな」

「そ、それは、確かに……」

「……わかりやすく言えば、七星のモデル業の時に俺と七星が恋人のフリをした時と同じような感じで良いんじゃないか?」

「え、えっ!?」


 俺がそう提案すると、七星は頬を赤く染めて驚きの声を上げた。

 そして、言葉を詰まらせながらも口を開いて言う。


「こ、恋人のフリをしてた時と同じって、そ、それ……」

「具体的な例としてわかりやすいと思ったんだが、何かいけなかったか?」

「……あ〜!もういいよ!確かに私もそれだと自然に話しやすいからそれでいい!じゃあ私、これからは色人にもタメ口で話すからね!」

「わかった」


 七星は、何故か顔を赤くして少し怒りながらも恥ずかしそうにしていたが、とりあえず俺が名前を偽っていたことで生じていた問題をこれで一つ解決できたという認識で良いだろう。


「……色人?」

「なんだ?」


 少し間を空けてから、頬を赤らめて俺の名前を呼ぶ七星にそう聞き返すと、七星は楽しそうに首を横に振って言った。


「えへへ、なんでもない……なんか、良いね」


 何が良いのかわからないが、七星が良いと感じているのなら別に悪いことでは無いためそのままで良いだろう。

 俺がそんなことを思っていると、七星が続けて恥ずかしそうにしながら言う。


「そうだ……ずっと呼ばれたら照れちゃって大変なことになっちゃうけど……一回だけ、私のことも下の名前で呼んでくれない?」

「どうしてだ?」

「いいから!」


 よくわからないが、とりあえず俺は言われた通りにすることにした。


「一羽」

「っ……!」


 俺が七星の下の名前を呼ぶと、七星は声にもならない声を上げて自らの顔を両手で覆い隠した。


「七星?」

「な、なんでもない!」


 そう言いながらも顔を両手で覆っていた七星だったが、やがて顔を上げると少しだけ頬を赤く染めた状態に戻っていた。


「そういえば、色人って葵先輩に告白されたんだよね?それも、彼女にして欲しいって」

「そうだ」


 水城先輩本人が吐露していて、隠しても意味が無いため正直に答えると、七星は口を開いて言う。


「そっか〜、じゃあ私たち、同じ人好きになっちゃったんだ〜」

「……悪い」

「もう!なんで色人が謝るの?確かにちょっとややこしくなっちゃったのは事実だけど、どっちにしたって私たちが色人のこと好きなのは変わらないんだから、そんなに気にすることじゃないよ……それと、ちゃんと伝えておきたいことがあるんだけど、良い?」

「あぁ」


 俺が頷いてそう返事をすると、七星は一度目を閉じて、再度目を開いた時には真剣な表情になると、俺の目を真っ直ぐ見て力強い声で言った。


「色人……私、色人のこと、大好きで大好きで、ずっと色人のこと考えてるの!だから……私と付き合って!!」



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