第121話 正体
「と、人色さんが……真……霧?」
七星は、今までに無いほど困惑、驚愕している様子で、その声には色が無かった。
今までずっと居ると思っていた存在、それも恋愛感情を抱いている相手が、そもそも存在せず、その正体が真霧色人だったとなればこうなってしまうのも当然だろう。
だが俺は、ここで七星が傷付いてしまうかもしれないと躊躇して、中途半端にものを伝えるようなことはしたく無いため、ハッキリと言う。
「そうだ……俺は、特待別世高校で七星と同じクラスに居る、真霧色人だ……だから、そもそも霧真人色っていう存在は、俺が作った偽りの存在なんだ」
「……」
俺がそう伝えると、七星は目を見開いたまま少しの間沈黙する。
だが、俺はさらに続けて言う。
「信じられないなら、確か七星の友達とかクラスメイトが、俺の文化祭の時の執事服を着ている時の写真を撮っていたからその写真を見せて貰えばいい……執事服の時は今と同じように髪を上げてるから、今の俺が言っていることが嘘じゃないとわかるはずだ……なんだったら、今この場でヘアセットを崩しても良い」
「……じゃあ、本当に、そうなんですか?人色さんが……真霧、なんですか?」
「そうだ」
困惑しているのか、驚愕しているのか、怒っているのか、悲しんでいるのか。
七星は全く感情の見えない声色でそう聞いてきたが、とにかく今俺が七星のことを暗い感情にさせてしまっていることは間違いない。
────これが、俺の逃げ続けてきた瞬間だ。
七星のことを傷付け、俺が拒絶されるかもしれない瞬間。
今まで俺は、ずっとこの瞬間が怖くて、七星に俺の正体を伝えることを避けてきた……だが、今は────例えそうなってしまったとしても、これ以上七星に自らを偽りたく無いんだ。
だから、これ以上七星に自らを偽らなくて済むなら、俺は今から浴びせられるであろう七星からのどんな罵詈雑言でも受け入れる。
そんな覚悟で、次に七星が言葉を発するのを待っていると、その時が来た。
「人色さんが、真霧……っていうことは────私と人色さんって、同じ高校だったんですか!?」
「……え?」
全く予想外なことを大きな声で、それも嬉しそうに聞いてくる七星に対して、俺は思わず困惑の声を漏らしてしまう。
「こ、高校……?」
思わず言葉を詰まらせてそう聞き返すと、七星が明るい声で言った。
「今人色さんが言ってたんじゃ無いですか!人色さんが真霧、特待別世高校で私と同じクラスの真霧色人だって!」
「それは……そうだが」
「え〜!嘘っ!しかも同じクラスじゃ無いですか!!待って待って、え?っていうことは、私休み時間いつも人色さんとお話ししてたってことですよね!?しかも二人だけの屋上で!?でも、待ってください!人色さんが真霧ってことは、私本人に恋愛相談しちゃってたんですか!?きゃ〜!恥ずかしい〜!顔熱くなって来ちゃいました!!」
「……」
今まで、七星が俺の予想とは全く反対の行動を取ったことは何度もあったが……その中でも、俺は今までで一番七星の言動に理解が追いつかなかった。
そして、俺はどうにか理解を追いつかせるために、七星に疑問を問う。
「七星……怒ってないのか?」
「怒るって、なんで私が人色さんと同じ高校だったってわかって怒らないといけないんですか?」
「そうじゃなくて、俺は……ずっと、七星に嘘を吐いてたんだ、それも、俺の存在ごと……俺はそんな最低な人間なのに、怒ったり、恨んだりしないのか?」
「そんなことするわけないじゃないですか!ていうか、人色さんは最低な人間とかじゃないですからもう絶対そんなこと言わないでください!むしろそっちの方が怒ります!!」
そう大きな声で言うと、七星は少し声を落ち着けて続けて言った。
「まぁ、なんでもっと早く言ってくれなかったのかな、とは正直思いますけど、人色さんは意味も無くそんな嘘吐く人じゃないことはとっくにわかってたので、怒ったりも恨んだりもしないです!むしろ同じ学校だってわかって嬉し────」
そう言いかけた七星のことを、俺は思わず抱きしめて言った。
「七星……今まで、本当に、悪かった……」
「……」
俺がそう伝えると、七星は俺のことを優しく抱きしめ返してきて言う。
「私、言いましたよね……今から人色さんの話すことがどんなことだったとしても、絶対に人色さんのこと大好きなままだって……人色さん────大好きです」
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