第120話 真霧色人だからだ
マンションに到着すると、俺たちはそのままエレベーターで7階へと上がり、七星の家の号室である『701』号室前までやって来た。
すると、七星は鍵を取り出して、鍵を開けると俺のことを家に招く。
「お邪魔させてもらう」
「はい!気軽に上がってください!」
そして、二人で靴を脱いで廊下を歩く。
……七星は今も、ここに来るまでの間も、ずっと嬉しそうな表情をしていたため、俺はそんな七星に予め伝えておくことにした。
「伝えないといけないことがあると言ったが、少なくともこれは良い話じゃない……むしろ、七星のことを傷付けてしまう可能性しかない話だ」
「それは、人色さんがしんどそうな顔してたのでわかってるつもりですけど……今までの人色さんだったら、そのまま自分で抱え込んで、私にそのことを伝えようともしてくれなかったと思うんです……だから、どんな内容だったとしても、そのことを私に伝えようとしてくれてるのが嬉しいんです」
「七星……」
そんな七星のことを、今から俺の話すことで傷付けてしまうと思うだけで苦しくなってくるが……俺はもう、自分を偽らず、七星に全てを伝えると決めたんだ。
その時を目の前にしても、その自らの決意が揺らいでいないことを認識した俺は、そのまま七星と一緒に廊下を歩くと、そのままリビングへと通された。
リビングは相変わらずとても綺麗で、ところどころに可愛らしいカーペットや花が置いてあり、大きなテレビモニターから少し離れた場所には丸テーブルとソファがあった……前にここに来たのは夏休み前で、生けられている花が以前とは違っていた。
「水持ってくるので、このソファでくつろいで待っててください!」
「……あぁ」
七星に促された通りにソファに座ると、七星はキッチンの方に向かって行った。
「……」
七星一羽という存在が俺の中で大きくなっているからこそ、今から俺が伝えることによって、今後七星との関係性がどうなってしまうのかということに対して様々なことを考えてしまう。
だが、例えどうなったとしても、このまま自らを偽り続けて七星と関わり続けるよりはずっと良い。
当然だが、ここまで来ても────ここまで来たからこそ、俺の決意が揺らぐことはなく、七星が戻って来るのを待つ。
「お待たせしました!」
「あぁ、ありがとう」
数分後、水の入った透明のグラス二つを手に持った七星が俺の座っているソファまで戻ってくると、それを目の前にある丸テーブルに置いて、俺の隣に座る。
それから少し静かな時間が流れると、俺はいよいよ口を開いて、七星に全てを伝えることにした。
「七星、今から────」
「待ってください!」
俺がそう言いかけたところで、七星は俺の言葉を遮って待ったをかけてきた。
「……七星?」
その七星の行動の意図がわからず俺が少し困惑すると、七星が言った。
「大事な話をするっていう時に遮っちゃってすみません……でも、その人色さんの話を聞く前に、私からもどうしても伝えておきたいことがあるんです」
「伝えておきたいこと……?」
それが一体どんなものなのか、全く予測できないでいると、七星が曇りの無い目で、俺の目を見てきて言った。
「私!今から人色さんの話すことがどんなことだったとしても、絶対に人色さんのこと大好きなままですから!……そのことだけは、その話を聞く前に伝えておきたかったんです」
「……そうか」
今の七星はこう言ってくれているが、俺の今から伝えることを聞いて、気持ちに変化が出る可能性だってある。
だが、例えそうなったとしても、当然七星に怒りを覚えたりはしない……俺が今まで、ここまで俺に好意を抱いてくれている七星に自らを偽ってきたことの報いとして受け入れる。
「じゃあ、俺の伝えたいことを伝えさせてもらう」
「はい」
俺の言葉に対して七星が頷くと、俺は七星に伝える。
「俺は……霧真人色じゃ無いんだ」
「……え?」
突然の発言に困惑した七星だったが、俺は続けてハッキリと伝える。
「そもそも、この世界に霧真人色なんて人間は存在しない……何故なら俺は、霧真人色じゃなくて────真霧色人だからだ」
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