第119話 全てを伝えよう

◇七星side◇

 映画を観終えると、二人は映画館から出て、そのまま昼食を食べるべくお店に向かって歩いていた。


「映画、面白かったですね〜!ホラー映画だったのでホラー要素満載でしたけど、ホラーってだけじゃなくてちゃんと内容も面白かったので、あの映画が流行ってる理由がよくわかった気がします!」

「そうだな」


 そんな感想を言いながらも、七星の脳内には別のことがあった。

 ────さっきの何!?と、人色さんの方から私に手を重ねてきて、人色さんの大きな手が、私の手を……!!

 七星がそんなことを思っていると、少し間を空けてから霧真が言った。


「七星、さっきは悪かったな、勝手に手を重ねて」

「えっ!?い、いえっ!人色さんがああしてくれたおかげで、怖さもかなり薄れて最後まで観ることができたので、気にしないでください!それに……むしろ、人色さんがああいうことしてくれて、嬉しかった……です」

「……そうか、なら良い」


 霧真はいつも通り落ち着いた雰囲気だったが、七星は今の霧真の言葉や、手を重ねてくれたという行動に霧真の優しさを感じて嬉しくなる。


「人色さん……大好きです」

「っ……」


 突然そう言われた霧真は少し驚いたような顔をしたが、七星はそんな霧真との距離を縮めて言った。


「えへへ、また言っちゃいました……でも、前にも言った通り、本当に何度だって言えちゃいます……大好きです」

「……」


 それに対して霧真は何も答えなかったが、七星はこうして直接想いを伝えられるだけで満足だったため、一度気持ちを切り替えると、続けて言った。


「そういえば!この間私の高校で文化祭あったじゃないですか!私たちのクラス、あれで売上一位取ったんですよ!」

「頑張ったな」

「ありがとうございます!でも私、せっかく同い年なので、もし人色さんも同じ学校だったらな〜っていつも思っちゃうんです……なんて、本当にただの妄想なんですけどね〜」


 七星が照れながらもそんなことを言うと、霧真は少し間を空けてから言った。


「……もし俺と同じ学校だったら、どんなことをしたいんだ?」

「え〜?それはもう、毎休み時間話しかけに行って、お昼ご飯とかも食べて、同じクラスで班決めとかあったら絶対同じクラスになります!あ!班決めで思い出したんですけど、11月の最初ぐらいに私の学校で修学旅行があって────」


 その後、七星はお店に到着するまでの間、ずっと話し続け、霧真はそれに相槌を打って話を聞き続けた。

 ────その間、七星は、霧真の様子が少しだけおかしいことに、違和感を覚えていた。



◇真霧side◇

 七星と映画の感想などを話し合いながら昼食を食べ終えると、俺たちは二人で帰り道を歩いていた。


「はぁ〜!今日も本当に楽しかったです!」

「俺も楽しかった、ありがとう、七星」

「こちらこそです!ありがとうございます!人色さん!」


 本心からそう言いながらも、先ほどの七星のもし同じ学校だったら、という言葉が頭から離れず、俺はどこか複雑な心境だった。


「人色さん、10月の後ろの方とかって空いてますか?」

「……あぁ、空いてる」

「本当ですか!?じゃあ、また今度日程合わせたいです!」

「……わかった」


 そんなことを話していると、あっという間に俺たちの帰り道への分かれ道がやって来たため、俺たちは一度立ち止まって互いに向かい合う。


「今日はここまでだな」

「そうですね……また連絡します!」

「あぁ、気を付けてな」


 そう言った後、俺は七星のことを見て、少しの間動きを止める。

 ────本当に、これで良いのか?


「……人色さん?どうかしましたか?」


 このまま、また何も本当のことを言わずに、真霧色人として学校生活に戻って、七星と過ごすのか?

 それで良いのか?

 ────良いはずがない。

 なら……全てを伝えよう。

 そう心に決めた俺は、七星に言う。


「七星……もう帰るって話の流れの時に悪いんだが、どうしても伝えないといけないことがあるから、また今から少しの間、時間をもらっても良いか?」

「っ!」


 俺がそう聞くと────七星は、嬉しそうな表情で言った。


「もちろんです!人色さんがしんどそうな顔してたので、もし何も言ってくれなかったら、人色さんが私に背中を見せた瞬間に私から聞こうって思ってましたけど、人色さんの方から言ってくれて嬉しいです!じゃあ、私の家行きましょう!」

「……わかった」


 このことを伝えて七星に拒絶されてしまうとしても、俺は……もう、七星に自分のことを偽りたくない。

 改めてそう強い意志を持つと、俺たちは七星の提案通りに七星の家のマンションに向かった。



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