第118話 無意識に
────10月の最初の土曜日。
今日は、七星とホラー映画を見に行くべく、11時に駅前で待ち合わせをすることになっているため、俺は朝から髪を上げたヘアセットをして駅前へと向かった。
すると、そこにはいつも通り注目を集めている存在が居た。
カーキ色の中でも、どちらかと言えばベージュ寄りのチャックの柄が入ったジャケットの下に白のシャツを覗かせていて、下には上のジャケットと同じようにベージュ寄りのチャックが入ったミニスカートを履いている七星の姿があった。
俺の服も真夏の頃と比べれば変わったが、七星の服はより顕著に季節の移ろいを表しているな。
そんなことを思いながら七星に近付くと、俺は七星に声をかける。
「おはよう、七星」
「っ!人色さん!おはようございます!」
俺が話しかけると、とても嬉しそうに俺の方を見てそう言った。
「今日の服は秋って感じだな、大学生が着てそうな大人な雰囲気があるが、七星はそれすらもちゃんと着こなせてるから流石としか言いようがない」
「あ、ありがとうございます……!」
七星は、頬を赤く染めて素直に嬉しそうにしていた。
「人色さんは、秋になっても変わらずシンプルな感じの服で似合ってますね!ていうか、人色さんはカッコいいのでどんな服でも似合っちゃうと思いますけどね!」
「どんな服でもは言い過ぎだ、現に今七星の着てる服は多分俺には似合わない」
「え〜!そんなこと無いですよ!この服メンズとかも売ってるので、今度試着して見てください!絶対似合うので買った方が────お揃コーデ……!?」
何かを言いかけた七星は、突然聞き取れないほど小さく高い声で何かを言うと、続けてぶつぶつと呟き始めた。
「と、人色さんがこの服買ったら、今度出かける時とかに服合わせたりして出かけられるってこと……!?えっ、めっちゃしたい……!ていうか、人色さんにお揃になるやつプレゼントとかしちゃう……!?って、落ち着いて私……!まだ付き合ってもないのにお揃とか浮かれすぎ────」
「七星?どうかしたのか?」
「な、な、何でもありません!!」
七星は、慌てた様子で両手を振りながらそう言った。
……ずっと俺には聞こえない声で何かを呟いていたから何かあるのかと思ったが、この様子なら大丈夫そうだ。
「それなら、早速だが映画館に向かうか」
「は、はい!」
その後、俺と七星は、二人で電車に乗って街にある映画館へと向かった。
そして、映画館に入ると、目の前に俺たちが見る予定のホラー映画のポスターがあったため、七星はそれをジッと見ていた。
「……もしやっぱり観たくないってことなら、別の映画にしておくか?」
ホラー映画が苦手な七星がホラー映画を観るのにはそれ相応の覚悟が必要と推測され、その覚悟は直前になって揺らいでも何らおかしくないため、俺が七星に無理に観る必要は無いという意図でそう伝えると、七星は言った。
「き、気遣ってくれてありがとうございます!でも大丈夫です!もうこれ以上友達にホラー映画観れないことイジられたく無いですし、それに……」
続けて、七星は頬を赤く染めて俺の顔を見てきて言った。
「人色さんとだったら、私……大丈夫な気がします」
「……そうか、だが、辛くなったらすぐにでも観るのをやめてスクリーンから出て良いからな」
「っ……!はい!」
その後、俺と七星は、ホラー映画のやっているスクリーンに入ると、隣り合わせに座った。
七星は、序盤こそどうにか堪えている様子だったが、中盤に差し掛かってくるにつれて怖さを表情に出し始めていた。
「……」
「っ……!」
俺は、そんな七星の手にほとんど無意識に自らの手を重ねると、七星は一瞬俺の方を見てから、安堵したような表情で再度スクリーンと向き合い、そのまま最後まで映画を観終えた。
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