第117話 大好きだからだよ
「……どう?落ち着いた?」
「はい、ありがとうございます、水城先輩」
俺がそうお礼を伝えると、水城先輩はゆっくりと俺のことを抱きしめるのをやめて、屋上にあるベンチを指差して言った。
「ちょっとだけ、あそこに座って話そっか」
「……わかりました」
水城先輩の提案によって、俺たちは一つのベンチに座った。
すると、水城先輩が聞いてきた。
「それで〜?私の愛しの色人くんは、どうしてしんどそうな顔してたのかな〜?」
「……」
それに答えるためには、中学でのことや、霧真人色のことなど、今水城先輩には答えるのが難しいようなことを答えないといけなくなり、ましてや霧真人色のことについて、七星よりも先水城先輩に伝えるのは何か違うと思うため、それに答えることはできない……だが。
「水城先輩……一つだけ、お願いがあるんですけど、良いですか?」
「うん、いいよ?色人くんのお願いだったら、どんなものでも聞いてあげる」
迷い無くそう言った水城先輩に対して、俺はその願いを伝える。
「これから先……俺のことを嫌いになることがあっても、七星とだけはずっと仲良く居続けて欲しいんです」
「七星ちゃんと仲良く居続けて欲しい……?よくわからないけど、そんなの色人くんに言われるまでもないよ!言っておくけど、私たち色人くんが思ってるより仲良んだからね?私一羽ちゃんの出てる雑誌の最新号毎回買ってるし、一羽ちゃんもこの間テレビでやってた私の出てる水泳大会録画して見て、感動したって言っていきなり号泣しながら電話かけてきたぐらいなんだから!」
そんなことがあったのは知らなかったが────そんなに仲が良いなら、余計に俺のせいでその仲の良さが崩れてしまうなんて、絶対にさせたくない。
だが、今はこれ以上言っても、余計な不信感を抱かせてしまうだけで、伝えたいことは伝えられたため、この場ではそれで良いとしておくことにした。
「……わかりました」
「わかりました、じゃないよ!お姉さんが何もわからないよ!?……それに────」
水城先輩は、俺と腕を組んでくると、俺の肩に頭を置いてきて言った。
「こんなに大好きな色人くんのことを、私が嫌いになるっていうのも聞き捨てならないよね〜、色人くん、私がどれだけ色人くんのこと大好きかわかってないでしょ?ううん、疑問系じゃなくて、わかってないね」
「いえ……水城先輩が俺を好きだというのは、十分────」
「ううん、全然わかってないよ……前にも言ったけど、私は色人くんがして欲しいっていうことだったら、どんなことでもしてあげられるぐらい大好きなんだよ?」
……今までにも水城先輩は何度かそんなことを言ってくれていて、二学期が始まって少しした時は、それ以前とは言葉のニュアンスが違うと感じた────が。
水城先輩が俺に恋愛感情を抱いているとわかった今は、もはやそれはニュアンスが違う程度に収まるものじゃない。
俺の恋人になりたいと言ってきている水城先輩の、どんなことでもという言葉が示すのは────
「今、色人くんが想像したことがどんなことでも、私はそれを君としてあげ────ううん、したい……と、思ってるよ」
水城先輩は、頬を赤く染めてそう言うと、俺と腕を組む力を少し強めた。
「……もう、かなりわかったと思います」
俺がその言葉の意味も含めてそう答えると、水城先輩は俺と腕を組むのをやめてベンチから立ち上がって言った。
「うん!それならいいよ!じゃあ、そろそろ────」
水城先輩がそう言いかけた時、校内から予鈴のチャイムが聞こえてきた。
「あ〜!今そろそろ予鈴なるから戻ろうって言おうとしたのにそれ言い終わる前に鳴っちゃった!ほら、色人くん!早く行くよ!」
「は、はい」
その後、俺がベンチから立ち上がると、俺たちは屋上を出て途中まで一緒に足を進めた。
そして、それぞれの教室へ続く分かれ道にやって来ると、水城先輩が言う。
「色人くん!またね!」
「はい、また」
そんなやり取りをした後、俺に背を向けて教室に戻ろうとしていた水城先輩────だったが、俺はそんな水城先輩の腕を掴む。
「わっ!?な、何!?」
驚いた水城先輩が俺の方を振り向くと、俺は水城先輩の目を見て言った。
「すみません、水城先輩……最後に一つだけ聞きたいことがあるんですけど────どうして水城先輩は、俺が精神的に辛い時にあんなにも早く、的確に気付くことができるんですか?」
「え〜?そんなこと?何度も言ってるけど、それは────」
水城先輩は、俺の右の耳元で手を当てて、優しい声色で言った。
「私が、君のことを大好きだからだよ」
「っ……」
そう言われた俺は、思わず水城先輩の腕を掴んでいた手から力が抜けた。
すると、水城先輩は俺に手を振って笑顔で言う。
「じゃあ、今度こそまたね!色人くん!」
「はい……ありがとうございました、水城先輩」
その言葉を聞いた水城先輩は、俺に優しく微笑むと、俺に背を向けてこの場から去って行った。
もしかしたら……俺の中で大きくなっているのは、七星一羽という存在だけじゃなくて────
「……」
ひとまず、今は教室に戻ることが先決なため、俺は先ほどの水城先輩の言葉や優しさ、それらに込められた愛情などがまだ俺の心に残っていることを感じながら、教室へと戻って行った。
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