第116話 俺の心を
「あ、あ、葵先輩って真霧のこと好きだったんですか!?」
その事実を知らなかった七星は、続けてそう驚きの声を上げると、水城先輩が頷いて言った。
「うん、そうだよ?七星ちゃんにはもうバレちゃってるかなって思ったけど、七星ちゃんもまだ気づいてなかったんだ〜」
「た、確かに、コミュニケーションだからって、男の子のこと抱きしめたりするのはやり過ぎだって思ってましたけど……で、でもまさか水城先輩が真霧のこと好きだったなんて知りませんでした!て、ていうか告白もしたんですか!?」
「うん、彼女にして欲しいってね」
「そこまで!?へ、返事はどうなったんですか!?」
理解に頭や感情が追いついていないのか、怒涛の勢いで口を開く七星の問いに対して、次は俺が答える。
「返事はまだだ……今の七星ほど表に出して驚いたりはしなかったが、俺もかなり驚いていたから、ちゃんと考えてから答えを出させてもらうってことになった」
「そ、そうなんだ……って、ええ!?水城先輩、本当に真霧のこと好きなんですか!?」
一連の流れを改めて聞くも、まだ現実感が無いのか七星がそう聞くと、水城先輩はさらに俺に体を密着させてきて言った。
「もちろんだよ、大好きだから今もこうして体密着させてるんだしね」
「申し訳ないんですけど、それはやめてもらっても良いですか?」
「え〜!色人くん冷た〜い!七星ちゃんも、好きな人に自分の体感じて欲しいって気持ちわかるよね?」
「え、え?それは……めっちゃわかります!」
「ほら!」
ほら、と言われてもな……だが、この調子だと俺から離れてくれそうには無いし、朝のチャイムが鳴るまでの間はこのままの状態を受け入れる他無さそうだ。
「それにしても、鈍感な色人くんはともかく、七星ちゃんがそんなに驚くとは思ってな────」
そう言いかけた水城先輩は、一度その言葉の続きを言うのをやめると、再度口を開いて今度は申し訳なさそうな口調で言った。
「あ……もしかして、七星ちゃんの好きな人って……だとしたら、私────」
「い、いやいやいや!無いです無いです!確かに前好きな人居るとは言いましたけど、真霧じゃ無いのでそれは安心してください!ただ、本当に予想して無さすぎて驚いちゃっただけです!」
七星が慌ててそう言うと、水城先輩が言った。
「もしかしたら私すごく無神経なことしちゃってるのかなって思っちゃったけど、それなら良かったよ〜!私が恋愛感情を抱いてるのは色人くんだけど、女の子の友達として、七星ちゃんのことも本当に大好きだからね!」
「私も!葵先輩のこと大好きです!」
「ありがと〜!」
七星と水城先輩は明るくそう言い合う。
そんな楽しそうに話し合っている二人のことを見て、俺の中にある疑問が浮かんだ……俺は、近いうちに俺の正体を七星に伝えるつもりだが────それを伝えたら、この二人はどうなるんだ?
今はこんなにも楽しそうに話している二人……だが、好きな人が同じだったとわかれば、どうなるんだ?
自意識が過剰かもしれないが、二人が今まで通り仲の良い友達で居られなくなる可能性がある────それも、俺のせいで。
「っ……」
過程は全く違うが、俺はまた、中学の時と同じことをしてしまおうとしているのか?それも、俺のことを好きになってくれた二人に対して……?
俺は、どこまで────
「あ〜!そうだ!ごめんね七星ちゃん、ちょっと色人くんと教室の外に用事あるから行ってくるね!」
「え?は、はい!」
突然そんなことを言い出した水城先輩は、俺の手首を握ると俺のことを連れて歩き始めた。
「水城先輩……?どこに行くんですか?」
「良いから!ついてきて!」
「……」
水城先輩の声音には強い何かが乗せられていたため、大人しくついて行くことにすると────俺は、予鈴前で誰も居ない屋上まで連れてこられた。
「ここで用事って、一体どんな────」
「本当、君はすぐ勝手に一人で悩み込んでしんどそうな顔するよね」
そう言うと、俺のことを正面から優しく抱きしめてきて、優しい声色で言った。
「大丈夫だよ……前にも言った通り、色人くんがしんどい時は、私がこうして色人くんの全てを包み込んであげるからね」
「っ……」
水城先輩の優しさに甘えてはいけない……甘えてはいけないと、わかっていたが────その温かな愛情で、俺の心を温めてくれる水城先輩に、少しの間身を委ねた。
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