第115話 色人くんに告白もしたから

◇真霧side◇

 文化祭が終わり、10月が始まった今日この頃の週明け。

 教室の中に入ると────


「あ!おはよ〜真霧くん!」

「おはよう」

「お!来たか真霧!」


 クラス委員の女子生徒が朝から元気に挨拶をしてきたかと思えば、俺のことを見たクラスメイトたち数人が俺の元へ集まってきた。

 このクラスメイトたちの性格から考えて、朝から元気に挨拶をして来てもおかしくは無いが、それにしても元気だなと思っていると、俺のその疑問を解消するようにクラス委員の女子生徒が口を開いて言った。


「黒板見て!」


 そう促されたため、俺は促されるがままに黒板の方を向いた────すると、その黒板には。


『売上一位達成!!』


 という文字がとても大きく書かれていて、その周りに様々なデコレーションが施されている。


「あれは……俺たちのクラスが、文化祭で一番の売上だったってことか?」

「そうだよ!」

「これも、真霧と七星が客寄せ頑張ってくれたからだな!マジ感謝しかないぜ!」

「それな〜!」


 その後、俺は一応前にも伝えた通り俺たちだけでなく、クラスで勝ち取った成果だということを伝えておいたが、クラスメイトたちは俺のことを褒めちぎってきた。

 これ以上自分だけのおかげじゃないと伝えるのは、楽しそうにして喜んでいるクラスメイトたちの感情に水を差すことになるため、言わないことにしてそれから少しの間俺は褒めちぎられ続けた。

 ……そのことはともかくとしても、ここまで勝ち取った成果でクラスメイトたちが喜ぶなら、あの時髪を上げて執事服を着ることを拒否しなくて良かったな。

 俺がそんなことを思っていると、俺はやがてクラスメイトから解放されたため、自らの席に着いた。

 すると、七星が話しかけてくる。


「おはよう〜、真霧の方も長かったね〜」

「おはよう……俺の方もっていうことは、七星も同じことを?」

「うん、みんなが頑張ったからって伝えても、全然伝わってないみたいに私のことベタ褒めし続けてきたよ〜」


 どうやら、七星にも先ほどの俺と同じようなことが起きていたらしい。


「それにしても、真霧、本当この文化祭の準備期間から文化祭本番までを含めてそれまでとは大きく変わったよね〜」

「……そうかもしれないな」


 前は目立つこと、どころかクラスメイトと関わることすら嫌厭していたのに、今となってはクラスメイトたちが喜んでいるなら、この文化祭を全力で挑んで良かったとさえ思っている。

 自分の変化は自覚しづらいと言うが、このことに関しては自覚できているため、近くで俺のことを見てきた七星からしてみれば俺が自覚している以上に俺は変化しているんだろう。

 そんな俺の考えを表すようにして、七星が言った。


「かもじゃないから!ちょっと前までクラスでも存在感薄かった真霧が、今となってはクラス……っていうか、学校中でイケメンとかカッコいいとかって言われてるとか、ドラマとかでも全然見ないからそんなの!」


 そう聞くと、確かに本当に大きく変化したと言えるな。


「はぁ、本当、一体どんな顔だったらみんながみんなしてそんなキャーキャー言うのかな……言っておくけど、私は真霧の髪上げた顔がどれだけかっこ良くてもキャーキャー言ったりしないからね!」

「……わかった」


 俺が、を思いながら頷くと────


「おはよう〜!色人くん!七星ちゃん!」


 相変わらず元気な水城先輩が、俺たちの前に姿を現した。


「葵先輩!おはようございます!」

「おはようございます」

「聞いたよ?二人のクラス、文化祭で売上一番だったんでしょ?おめでとう〜!」

「っ!ありがとうございます!」

「七星ちゃんすっごく頑張ってたもんね〜!あと────」


 そう言いながら、水城先輩は俺に近付いて来ると、俺の背中に回って俺の首元から腕を通す形で俺のことを抱きしめてきて言った。


「私の愛しの色人くんも、執事服着て頑張ってたもんね〜」

「い、愛し!?」


 それを聞いた七星は驚いたように大きな声を上げると、続けて言った。


「み、水城先輩!いくらコミュニケーションって言っても、愛しのとか言いながら抱きしめたりしたら、真霧のこと好きみたいになっちゃいますよ!?」

「あぁ、私前から色人くんのこと好きで、文化祭で色人くんに告白もしたからそれは大丈夫だよ〜」

「なんだ、そうだったんですね!それなら────え?」


 水城先輩の普段と変わらない口調の言葉を、そのまま飲み込もうとした様子の七星だったが、できなかったらしく困惑の声を漏らすと────


「えええええ!?」


 次に、とても大きな驚愕の声を上げた。

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