第113話 いつか
◇真霧side◇
慣れない客寄せをしたということもあって少し肉体的に疲労があったのと、まさか水城先輩に告白されるとは思っていなくて、あの後も水城先輩と楽しく過ごしたりクラスメイトたちと話したりしたとは言ってもまだ少しその衝撃が残っていたため、俺はリラックスする意味でも家に帰るとすぐにお風呂に入った。
そして、お風呂に浸かりながら水城先輩の言葉の数々を思い出す────
「私は君のことが……色人くんのことが、大好きだよ……だから────私のことを、色人くんの彼女にしてくれないかな?」
「色人くんのこと、好きになっちゃってたんだよね」
「ちゃんと落ち着いて、ゆっくり考えてみてよ」
「これであとは、私の気持ちを色人くんにぶつけるだけだね〜!今まで気付いてなかった分、私が色人くんのこと大好きだってこといっぱい教えてあげるから、覚悟しててね!」
水城先輩が、俺のことを好き……未だに、あの水城先輩が俺に恋愛感情を抱いているなんて、現実感を感じることができないけど、あの言葉や表情、雰囲気は、疑うまでもなく本当のものだった。
「彼女に、か……」
本人は悔いているようだったが、七星の時は好きだという想いだけを伝えられただけで、その後の関係性について何も言われなかった。
だが、今回は、しっかりと彼女にして欲しい……要は、付き合って欲しいとハッキリ言われている。
焦って答えを出す必要は無いと言われたが、だからと言ってそのことを考えなくて良いわけではない……そのことに真剣に向き合って、考えていかないとな。
やがて、お風呂から上がった俺が自室に入って、スマートフォンの画面をタップすると、七星と水城先輩の二人からメッセージが届いていた。
どちらから返信しても良かったが、七星の方が先にメッセージが送られてきていたため、先に七星の方から返信することにしよう。
◇七星side◇
『文化祭が片付けも含めて全て終わったので、早速なんですけど昨日話してたホラー映画観に行く日決めませんか!』
────そんなメッセージを霧真に送ってから十分ほど経過した頃……七星は。
「ぜ、全然既読付かない!!」
という事実に、酷く心を乱していた。
「さ、最近は結構すぐに既読付けてくれてたのに!も、もしかして、私文化祭で何か嫌われるようなことしちゃったのかな?って、まだ十分しか経ってないんだから普通に用事とか、外に出てるとかでスマホ見てない可能性だって全然あり得るじゃん!!そんなにきにするようなことじゃないって!!」
頭ではそうわかっていても、好きな相手から返信が来ない時間は、七星にとって一分が一時間のように感じられるほど長い時間だった。
そして、そんなことを思っていると────
「あ!」
霧真から返信が返ってきたため、七星はそれに対する嬉しさで思わず口角を上げてそのメッセージに目を通す。
『今お風呂から上がったから気付くのが遅れた、日程を決めよう』
「お、お風呂……!?」
メッセージの本題である日程を決めるというところよりも、七星はそっちの方に反応をしてしまった。
「い、今お風呂から上がったってことは、今人色さんお風呂上がりってこと……!?」
そんな声を上げた七星は、脳内にお風呂上がりの霧真の姿を思い浮かべる。
「っ……!い、今はこんなこと考えてたらダメだって!!」
自らにそう言い聞かせると、七星は首を横に振ってその想像を振り払った。
そして、霧真とのメッセージに意識を戻して、メッセージを返信する。
『はい!いつぐらいが良いですか?私、とりあえず9月で忙しい時期終わったので、10月はいつでも合わせれると思います!』
『そうか、なら10月の最初の土曜日の11時に、駅前で待ち合わせしよう』
「えっ、そんなに早く会えるの嬉しい〜!」
そう言いながら、七星はとても速く文字を入力して送信する。
『わかりました!楽しみにしてますね!』
『あぁ、俺も楽しみにしてる』
そこで、二人はメッセージを終えた。
そして、七星は昨日の午後、メイド喫茶の客寄せをしているときに水城に言われた言葉を思い出す。
「雰囲気だけでも結構良い感じだったと思うから、今度その人のことを家に誘ったら、前七星ちゃんがその人としたかったこともできると思うよ?」
その言葉を思い出した七星は、大きな声で言う。
「あぁ〜!もう!人色は純粋に映画観に行くだけのつもりなんだから、そんなこと考えたら失礼だって!前それで変な空気になっちゃったの忘れたの私!?」
自らにそう言いながらも────好きな人と触れ合いたいという気持ちはそう簡単に収まるものではなかった。
「次とかじゃなくても……いつか、人色さんと────」
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