第112話 霧

 文化祭二日目が終了すると、俺と水城先輩は出し物の片付けのために解散して、それぞれの教室へと向かった。


「あ!お疲れ真霧くん!」


 教室の中に入ると、クラス委員の女子生徒がそう話しかけてきた。

 そして、それを聞いたクラスメイトたちが俺の方を見ると、俺のことを囲うようにして近づいて来て言った。


「おう!やっと来たか真霧!」

「午後もまあまあだったけど、特に朝の執事喫茶、すごい行列になってたね!真霧くんの客寄せのおかげなんでしょ?」

「マジでお前のおかげでマジ助かったぜ!」

「真霧くんカッコいいもんね〜!」


 どうやら、俺が朝客寄せをしたことに対して感謝をしてくれているようだ……が。


「執事喫茶の売上は俺だけの力じゃない、客を寄せても中でしっかりと仕事をしてくれないと売上にはならないからな……だから、感謝してくれるのは嬉しいがそこまで感謝されることでは────」

「泣けるじゃねえか!なんだよそれ!!」

「みんなの力ってこと?なんか涙腺に来ちゃう……!」

「週明けの売上ランキングが楽しみだな!!」


 ……最後まで言葉を伝え切ることはできなかったが、クラスメイトたちは喜んでいるみたいだったため、今はともかくそれで良いだろう。



◇七星side◇

 真霧の居る教室のドア付近とは反対にある窓際から、真霧とその周りに居るクラスメイトたちのことを見ていた七星は、一緒に居る女友達二人に話しかける。


「ねぇ、別にそんなに興味無いけど、真霧ってそんなにカッコいいの?」

「うん、私一羽ぐらい可愛い女の子見たこと無いけど、一羽と並べても遜色無いぐらいカッコいいんじゃない?普段は髪下ろしてるからあれだけど、髪上げたら輪郭綺麗だし目もかっこいいしで、誰が見てもイケメンだと思うよ」

「へぇ、全然イメージできな────」


 そう言いかけた時、七星は今日の朝、文化祭が始まる前に見た真霧の目を思い出す……その目は、少し髪の毛で隠れていたりしたものの、確かに七星から見てもかっこいいと思える目をしていた。

 ────はぁ、でも、真霧の目がそうだったからって、人色さんとは関係無い真霧の目まで一瞬人色さんの目に見えちゃうとか……私人色さんのこと好きすぎでしょ!まぁ好きすぎなんだけど!

 七星がそんなことを思っていると、もう一人が七星に聞いた。


「ていうか、一羽って前から真霧くんと仲良かったじゃん?二人で居るところとかたまに噂されてたし……実際、そこのところどうなの?」

「どうって?」

「だ、か、ら!真霧くんと恋愛的にどうなのってこと!」


 そう聞かれた七星は、一度ため息を吐いてから言う。


「確かに、真霧は一緒に居て楽しい友達だけど、本当にそういうのじゃないから……前にも言ったけど、私他に好きな人居るの」

「あのモデルでも俳優でも『顔が整ってるのはわかるけど……』が口癖だった一羽が、カッコいいって認めた人だよね」

「あ〜!それ!マジ写真見せてよ〜、見たすぎるんだけど〜」

「嫌!」


 モデルという仕事をしている七星は、自らの写真を人に見せることに抵抗は無いが、自らが持っている霧真の写真に関しては見せるのに抵抗があった。

 まず、一枚目は、初めての霧真とのツーショットということで、七星的には自らの顔が緊張していてどこか表情が堅いため見せたくない。

 そして、二枚目は水着姿のため、自分の水着姿だけならともかく霧真の水着姿を見せるというのは、いくら友達とは言えど見せたくはない。

 以上の理由から、七星は霧真の映っている写真は誰にも見せたく無い。

 七星がその二枚の写真のことを思い出していると、七星の友達が口を開いて七星に聞いてきた。


「でも、そんなに他に好きな人居るのに、文化祭他の男と回って良かったの?」

「他の男……?私、男の人とは好きな人としか回ってないよ?」

「え?でも、噂じゃ一羽、真────」

「七星さん〜!それに二人も!こっちおいでよ〜!みんなで話そ〜!!」


 友達が何かを言いかけた時、クラス委員の女子生徒が七星たち三人に向けてそう言った。


「う、うん!」

「おっけ〜!」

「了解〜」


 七星たちは、そう返事をすると、そのクラスメイトたちの集まっている方向へと歩いて行く。


「……」


 七星の中には、霧のように掴めない漠然とした何かがあったが、今は共に文化祭を過ごしたクラスメイトたちとの時間を、純粋に楽しむことにした。

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