第111話 水城の気持ち

 ────時間が1秒ずつ流れ、心臓が鼓動の音を刻むたびに、衝撃的な言葉と共に告げられた水城先輩の目でなく、その衝撃的な言葉の方にも深く意識が向く。

 水城先輩が俺のことを、好き……?

 俺の、彼女になりたい……?

 もしこれが普段の水城先輩が相手だったなら「そういう冗談はやめてください」なんて返していたところだろうが、今の水城先輩は普段の水城先輩とは違う。

 今まで見たことのないような表情や目に、雰囲気……とてもじゃないが、それを冗談なんて形容することはできなかった。


「ちょっと、何か言ってよ!そんなに黙られてると、いくら私の方がお姉さんって言っても不安になっちゃうじゃん!」

「あ……あぁ、すみません、水城先輩が俺のことを好きだったとは思っていなかったので、頭が追いついてなくて……」


 俺がいつにも無く小さい声でそう謝罪すると、水城先輩が言う。


「もう〜!本当鈍いんだから!好きでもない男の子のこと抱きしめたり、腕組んだり、頬にキスしたりするわけないでしょ?」

「それは……そうですけど、水城先輩の性格だったら大事な後輩ってことで────」

「色人くんが大事な後輩なのは確かだけど、それだけでそんなことまでしないから!ちゃんと言っておくけど、体を密着させたりするのだって、大好きな色人くんだけなんだからね?」


 ……そうだったのか。

 ……別に、誰彼構わずそんなことをすると思っていたわけじゃないが、少なくとも俺に対してのそういった行為を恋愛的なものとしては受け取っていなかったため、その点については素直に驚いた。


「まぁ、今年最初の水泳大会の時までは、色人くんは他の男の子の違うなっていうぐらいで、気になってる後輩の男の子って感じだったんだけど……あの大会で私のこと助けてくれたり、それからも色々と時間を過ごしていくうちに……色人くんのこと、好きになっちゃってたんだよね」


 そう語る水城先輩は、恥ずかしそうに頬を赤く染めながらも、どこか嬉しそうな表情をしていた。


「……俺が他の男子と違うというのは、どういう意味ですか?」

「あぁ、それは……なんとなくの雰囲気っていうのもあるんだけど……私って、胸大きいでしょ?もしかしたら無意識で、仕方無いことなのかもしれないけど、私と話す時、男の子は一回は私の胸見るんだよね……でも、色人くんはそれが無かったから」


 続けて、水城先輩は俺の方に身を乗り出して言う。


「でも、だからってまさかここまで鈍いとは、その時は思ってなかったけどね〜?」

「……すみません」

「あはは、冗談だよ……私は色人くんのそういうところも好きだからね」


 そう言った後、水城先輩は俺に一度ウインクをした。

 水城先輩は、自らの想いや告白に至るまでの経緯まで、全てを話してくれた……だから、あとは俺が水城先輩の告白に対してどう返事をするかだ。

 俺は……水城先輩と、どうなりたいんだろうか。

 このまま、先輩と後輩という関係性のままで居るのか、それとも恋人として新たな関係性になるのか……七星の時は、告白はされたが恋人になるといった関係性の進展を望んでいることまでは明示されていなかったため深く考えることは無かったが、今回はそうでは無いためしっかりと答えを────


「言っておくけど、別に今すぐに返事をもらおうなんて思ってないからね?」

「……え?」


 俺がその発言に困惑していると、水城先輩が言った。


「私の告白に驚いてる状態の色人くんから出された答えじゃ、どっちにしても納得できないからね〜、ちゃんと落ち着いて、ゆっくり考えてみてよ」

「そうですか……わかりました」


 そう言って頷くと、水城先輩は両腕を広げて言った。


「はぁ、スッキリした〜!これであとは、私の気持ちを色人くんにぶつけるだけだね〜!今まで気付いてなかった分、私が色人くんのこと大好きだってこといっぱい教えてあげるから、覚悟しててね!ていうか私、まだ文化祭で食べたいのあるの!早く行こ!色人くん!」

「は、はい」


 その後、俺は水城先輩に連れられる形で水城先輩と一緒に文化祭を回った。

 考えることは色々とある、が……水城先輩は、吹っ切れたようにとても楽しそうにしていて、そんな水城先輩のことを見て、俺も文化祭の残りの時間を楽しい気持ちで過ごすことができた。


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