第110話 水城先輩の告白

 女としての……魅力?

 どうして突然そんな話になったのかはわからないが、水城先輩の声色や雰囲気はいたって真剣なもののため、俺はその言葉に対して真面目に返答することにした。


「水城先輩は魅力的だと思いますよ、この間の水泳大会では圧倒的な差をつけて優勝できるほどに努力を重ねていたり、普段も見えづらいところを気遣ってくれたりして、かっこよくてすご────」

「そういうところを魅力的だって言ってくれるのは嬉しいけど、色人くんの言ってることって先輩としてとか、人としての魅力だよね?私が聞いてるのは、女としての魅力だよ」


 女性としての魅力……か。

 今まで深く考えてこなかったが、一般的に異性に求める魅力というのは容姿や性格のことを言うだろうから、おそらくここで言う魅力というのはそのことを言うんだろう……そういうことなら。


「水城先輩は綺麗で、明るくて、優しくて女性としても魅力的な方だと思いますよ」

「っ……!」


 俺がそう答えると、水城先輩は頬を赤く染めて驚いたように口元を結んだ。

 ……が、すぐに眉を顰めて言う。


「でも、そう言ってくれる割には綺麗で、明るくて、優しい私が色人くんに胸押し当てたりしてるのに、色人くん全然ドキッとしてくれないよね?私、結構胸の大きさには自信────っ!も、もしかして、色人くん……小さいのが好きなの!?」

「いえ、別に特段好みはありません」

「良かった〜!もし小さいのが好きだって言われちゃってたら、私本気でショック受けちゃってたよ〜!でも、私のことを綺麗だって思ってくれてて、胸の好みも無いんだったら、どうして色人くんは私の胸が当たった時も普段と様子が変わらないの?」

「俺も、全く何も思わないわけじゃ無いです……ただ、やっぱりそういう感情は恋人関係になった相手に抱くものっていう先入観があるのかもしれません」

「恋人、関係……」


 水城先輩は、俺の言葉を切り取ってそう呟いた……水城先輩には色々と思うところがあって、俺もそんな水城先輩のことは気になるが、今はとりあえず。


「ずっとこうしてるわけには行かないので、ひとまずこの脱出ゲームから出るためにも、そこを退いてもらえませんか?」

「あ、あ〜!そうだね!」


 ずっと床に手を付いて俺の上に覆い被さっていた水城先輩にそう伝えると、水城先輩はそこを退いてくれたため、俺たちは二人で改めて立ち直す。


「じゃあ、もうラストスパートだと思うから、脱出目指してあとちょっと頑張ろっか!」


 そう言うと、水城先輩は先ほどまでと同じように俺と腕を組んできた。


「はい」


 俺がそう返事をすると、俺たちは再度足を進めて、残り少ない謎に立ち向かい、無事に脱出ゲームをクリアした。

 そして、廊下に出ると水城先輩が両腕を広げて言う。


「脱出成功〜!ほとんど色人くんが解いてくれたおかげだね〜!」

「いえ、そんなことはありません」

「もう!また優しいんだから〜!ずっと閉鎖空間に居たし、気分転換に屋上とか行かない?」

「わかりました」


 水城先輩の提案によって、人の行き交う廊下を歩いて屋上までやって来た……文化祭の最中、それもしっかりと食べ物を食べるスペースが中庭などで確保されているこの特待別世高校の文化祭では、わざわざ屋上まで来る人は居ないようで、この屋上には今、僕と水城先輩しか居なかった。


「やっぱり天井が無いって良いよね〜!どこまででも行けちゃいそうな気分!」

「なんとなくわかります」


 俺がそう言って頷くと、水城先輩は改まって俺と向き合って言った。


「ねぇ、色人くん……さっき、そういった感情は恋人に抱くものっていう先入観があるって言ってたけど、あれって要するに恋人相手にだったら色人くんもドキドキしちゃうってこと?」

「その相手が好きだと思えるほど魅力的な相手なら、そうなんじゃ無いですか?」

「そっか……やっぱり、色人くんには、私にドキドキして欲しいな……」

「……水城先輩?」


 俺には聞こえない声で何かを呟いた水城先輩の表情が、どこかいつもと違ったため俺が様子を窺うと、水城先輩が言った。


「色人くん、一つ伝えたいことがあるんだけど……良いかな?」

「はい、なんですか?」


 俺がそう聞き返すと、水城先輩は頬を赤く染めて、俺の目を真っ直ぐ見て言った。


「私は君のことが……色人くんのことが、大好きだよ……だから────私のことを、色人くんの彼女にしてくれないかな?」


 ────静寂に包まれた屋上の中で放たれた水城先輩の言葉に、俺の心臓はこの屋上とは反対にとても騒々しくなっていた……が、水城先輩の、綺麗で俺のことを包み込むような愛を感じる目から、目を離すことができなかった。

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