第109話 脱出ゲーム

「────色人くんってやっぱり賢いね〜!色人くんのおかげで、ここまで楽々進めちゃったよ〜!」


 いくつかの謎を解いてある程度進んできたところで、俺の腕を組んで隣で歩いている水城先輩がそう声を上げた。


「水城先輩も一緒に考えてくれたからだと思いますよ」

「色人くんってば優しい〜!それにしても、映像とか雰囲気とか作り込みすごいよね〜!本当に閉じ込められちゃった気分だよ〜」

「そうですね」


 床や壁には、足音が小さく響く素材が使われており、その床や壁は進むごとに映像、材質までも切り替わっていき、とても強く臨場感を感じる。


「もし本当にこんなところに閉じ込められちゃったら、色人くんはどう思う?」

「状況にもよりますけど、仮に今この場所に閉じ込められたとしたら、水城先輩と一緒なので退屈はしなさそうですね」

「っ!それはもう、一日中どころか何日だって話したいこといっぱいあるから、色人くんに退屈なんてさせないよ〜!ていうか、私と一緒に居て退屈そうにする悪い色人くんが居たなら────」


 水城先輩は、俺の腕を自らの胸に沈ませて言った。


「こんな感じで、色人くんが退屈だなんて思えないようにしてあげるから!」

「それは……確かに、退屈な顔なんてできませんね」

「でしょ〜?」


 その後、水城先輩は俺の腕を水城先輩の体から離すと、元通りに腕を組んだ。

 そして、歩き進んでいると、まるである一つの部屋にやって来たかのような映像を映し出している空間にやって来た。


「あ!見て!なんかあるよ!」


 水城先輩がそう言って視線を向けた先には一枚の紙があり、水城先輩はそこに書かれてあることを音読した。


「えっと、この空間にある複数の暗号を探し出して、キーワードを大きな声で叫んでくださいだって」

「なるほど……それなら、手分けして探しましょうか」


 それにしても……この空間にある机や椅子にもしっかりと映像が当てられていて、雰囲気を壊さないようにしていたりと、本当にこの脱出ゲームは凝っているな。


「色人くんと離れちゃうのは悲しいけど、すぐに暗号見つけちゃえば良い話だもんね〜!じゃあ私、あの机の下探そっかな〜」


 そう言うと、俺と腕を組んでいる腕を離して地面に膝を突き、早速机の下に手を伸ばし始めた。

 それなら、俺は反対方向を────と思っていると。


「あ!色人くん!スカートの中覗きたかったら覗いても良いからね!」

「覗きません」


 水城先輩が意味のわからないことを言って来たため、そう短く返すと俺は水城先輩の反対方向を捜索し始めた。

 そして、見つけた暗号を繋ぎ合わせ、水城先輩が大きな声でキーワードを叫ぶと、閉ざされていた道が開いて俺たちはその先へと進む。

 すると、水城先輩は再度俺と腕を組んで来て言った。


「また色人くんと腕組んじゃった〜!ていうか、色人くんって本当にそういうこと興味無いよね〜、せっかく私の下着見られる機会だったのに、それを自分から手放すなんてさ〜」

「はぁ」

「もう!何その気の抜けた感じ!?お姉さんは本気で心配してるんだよ?抱きしめて胸押し当てたりしても、色人くん全然普段と様子変わらないし、さっきも色人くんの腕が私の胸と密着した時も全然変わらなかったし!……それとも、女としての私に魅力が無いだけ、なのかな」

「……水城先輩?」


 いつものふざけた調子の水城先輩かと思えば、最後の言葉はふざけているわけではなくどこか思い詰めたような声音だったため、そのことが気になって水城先輩のことを呼んだ俺────だったが、その直後。


「わっ!?」


 映像が切り替わると同時に大きな音が鳴ったことに驚いた水城先輩がバランスを崩すと、俺はそれを庇う形で床に背を付けた。

 幸い、床の素材がこの場所は硬くないものだったため痛みはほとんど無い。


「ご、ごめんね、色人くん」

「いえ、大丈夫です」


 俺に覆い被さる形で床に手を付いている水城先輩が謝罪してきたため、俺はそう返事をした。

 それから、水城先輩がその場を退いてくれるのを待っていたが、水城先輩はその場から動く気配が無い。


「……水城先輩?」


 そのことを疑問に思った俺が水城先輩の名前を呼ぶと、水城先輩は真面目な声色で聞いてきた。


「ねぇ、色人くん……私って、女としての魅力無いかな?」

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