第107話 客寄せ

「よし!じゃあ真霧!十人でも百人でも千人でも集めて来てくれ!!」


 クラスメイトが俺に向けて元気にそう言ってきた。

 千人はまず不可能だろうが、そのぐらいの心意気だということで理解して頷くと、執事&メイド喫茶の行われている教室の前に出る。


「客寄せか……」


 俺は今までバイト経験が無く、当然客寄せなんかもしたことが無いためどうすれば良いのかわからないため、ひとまずは直近で見た七星のことを思い出す。


「すみませ〜ん!今メイド喫茶やってるんですけど、良かったらどうですか〜?」


 ────みたいに、とにかく明るく話しかける感じだったな。

 そして、それと同じことを俺ができるかと言われれば……無理だ。

 というか、もし俺が同じことをしたら、不自然さが表に出てしまって、客寄せどころかその相手は俺から離れていくだろう。

 俺がどうすれば良いのかと思考を巡らせていると、近くを歩いている複数人のうち、若い女性二人が俺の方を見て話している様子だった。


「ちょっと、見て!あの人かっこよくない?」

「え?うわっ、本当だ!顔強すぎでしょ!あれ執事服かな?」


 ────ここだ!

 俺はその女性二人に近付くと、声を掛ける。


「ここで今執事喫茶をやってるので、良かったらゆっくりして行きませんか?」

「えっ!?えっと……は、はい!い、良いよね?」

「う、うん!」


 そんなやり取りをすると、二人は執事喫茶の中へと入って行った。

 なるほど……なんとなく感覚は掴めた。

 この調子で────と思っていると、俺があの二人と話をしている間に周囲に人が増えていて、無数の声が聞こえてきた。


「え、待って、あの人めっちゃカッコよくない?」

「え〜!モデルさんかな?」

「やば〜!イケメンすぎ……!」


 さっきまでは文化祭開始直後ということもあってまだ人の数が少なかったが、あの二人と話している間のわずかな間でもここまで歩いて来ている人は増えていて、廊下でこんな服を着て人と話していれば目立ちもするのか、女性を中心として俺に視線や話題が向けられていた。

 ────この機を逃すまいと、俺は片っ端から客寄せをしていく……すると。


「はい!」

「行きます!」

「連絡先教えてください!」

「わ、わかりました!」


 といった返事をもらうことができ、その後も同じことを続けて行った。

 時々連絡先を聞いてくる同い年、もしくは大学生の女性も居たが、その誘いは丁重に断らせてもらった。

 そんなことをしていると────


「頑張ってるみたいだね〜!」


 そんな聞き覚えのある声が聞こえて来たため、その声の方向に振り返ると、そこには水城先輩が居た。


「すごい行列になってる!これ色人くんが集めたんでしょ?」

「はい、一応俺が客寄せしました」

「色人くんカッコいいもんね〜!ていうか、執事服ついさっき初めて見たけど本当に似合ってるよ!」

「ありがとうございます」


 俺がそうお礼を言うと、水城先輩は俺との距離を縮めて来ていつも通り明るい表情で言う。


「ねぇねぇ、これってもし私がお客さんになったら色人くんに『おかえりなさいませ、お嬢様』とか言ってもらえちゃったりするの?」

「いえ、俺は客を集めるだけなので、そういったことはしません」

「そうなんだ〜、まぁ、今は色人くんの執事服姿を見にくるだけのつもりだったから良いんだけどね〜!また午後になって色人くんの仕事が終わったら、その時はここに来るから、そうなったら二人で一緒に文化祭回ろうね〜!」

「はい」


 とても楽しそうに話している水城先輩に対して俺が頷いてそう答えると、水城先輩は俺に手を振ってこの場を後にした。

 水城先輩と文化祭を回るのは楽しみだが、ひとまずは残りの時間も全力で客寄せを行い────その時間が終わると、髪を下ろして制服に着替え、いよいよ水城先輩と文化祭を回り始めることとなった。

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