第106話 真霧の目
◇真霧side◇
────文化祭二日目。
今日の午前中は、昨日の文化祭一日目と違い、俺も執事&メイド喫茶の出し物に協力しないといけないため、文化祭開始前の時間から俺のクラスの教室へやって来た。
すると、もうすでに学校に登校して居たらしい七星が、俺に話しかけてくる。
「おはよ〜!真霧!」
「おはよう、七星」
「あんなに準備頑張ったのに、文化祭が二日しか無くて今日で終わりとか、なんか勿体無い感じするよね〜」
「そうかもしれないな」
俺が賛同すると、七星はこの文化祭が今日で終わることに対して歯痒さを覚えているような態度を取ったが、続けて明るい表情と声で言った。
「でも!逆に考えたら、この文化祭のその準備期間の全部が詰め込まれてるわけだから、その文化祭の濃厚さをちゃんと楽しまないとだよね!」
「そうだな」
「うんうん!私、昨日もう客引き頑張ったから今日は一日フリーだけど、真霧は今日の午前中は昨日の私の午後と同じで客引きなんでしょ?面食いの友達がカッコいいって言ってたぐらいカッコいい真霧なら、いっぱい人集めれると思うよ!」
「努力はしよう」
そう答えた俺は、少し抱いている疑問を七星に投げかけることにした。
「一つ疑問なんだが、七星は俺の顔が気にならないのか?」
何の裏の意図も無い、単純な疑問を投げかけると、七星が言った。
「みんなカッコいいカッコいいって言ってるから、気になるか気にならないかで言ったらもちろん好奇心的な意味で気になるけど、カッコいいって言われてるからって私が『真霧の顔見たい!』なんて言ったり思ったりしたら、私の好きな人に顔向けできないし……何より!顔とかじゃなくて、真霧は真霧でしょ?だから、気にはなるけどそこまでって感じ?」
顔とかではなく、俺は、俺……なら、仮に霧真人色が真霧色人だと知った時、七星はなんて捉えるんだ?
霧真人色を霧真人色として捉えるのか、それとも霧真人色を真霧色人として捉え、今までずっと騙されていたと思うのか。
「……七星」
「ん、どうしたの?」
「俺は、確かに七星に嘘を吐いてきたが、少なくとも悪意のある嘘なんて吐いたことはないし、交わした言葉はほとんど本音で話してきた……だが、俺に対して真っ直ぐ接してくれる七星に対して嘘を吐いてきてしまったことを、本当に悪いと思ってる」
今の七星にこんなことを言っても、この言葉の真意は伝わらないとわかっていたが、それでも俺は七星に謝罪せずには居られなかった。
だが、案の定その言葉の真意は伝わらず、七星が普段と変わらない様子で言う。
「もう〜!何それ!別に顔カッコいいこと隠してたからって謝らなくて良いって!目立ちたくないっていうのは前も聞いてたしね……でも!」
七星は、俺の髪の毛を手のひらでわしゃわしゃとしだすと、続けて明るい声色で言った。
「執事がこんな暗い雰囲気じゃお客さん寄ってこないから、もうちょっと明るい雰囲気にした方がいいよ?」
「……そう、だな」
俺が相変わらずな七星のことを見てどこか複雑な気持ちになっていると────一瞬、髪の毛が乱されたことによって、俺の目と七星の目が合った。
「……え?」
その次の瞬間には俺の目は髪の毛によって隠れたが、七星は俺の髪の毛を乱す手を止めて困惑した様子で口を開いた。
「なんか、真霧の目が、私の好きな人と似てるような────」
「一羽〜!そろそろ行かないとクレープめっちゃ並ぶことになるから早く行こ〜!」
「あ、あ〜!ごめん!すぐ行く!」
おそらく七星が今日一緒に文化祭を回るという七星の女友達によって七星の言葉が遮られると、七星はそう返事をしてから慌てた様子で俺に言った。
「じゃあ、私行ってくるね!真霧も、執事喫茶頑張って!」
「あぁ、七星も文化祭を楽しんでくれ」
「う、うん!」
七星は、どこか動揺した様子でありながらも切り替えるように明るく返事をすると、その友達の方へ走って行った。
……七星の言葉一つ一つが、俺に突き刺さる。
いい加減、俺は耐えられなくなってきているのかもしれない。
────俺に好意を向けてくれる七星に、自らのことを偽り続けることを。
「あの様子だと、七星が俺の髪を上げた姿を見に来ることは無いだろうから、この文化祭で七星に正体がバレることはない」
だが……こんなことを、いつまでも続けて居たくはない。
というか────運に任せた状況で七星に正体がバレて、それで本当に七星と向き合っているなんて言えるのか?
「……言えるわけがない」
文化祭で執事服姿を見られる機会があったらその時は、いよいよ七星と……なんて思っていたが、俺は結局七星と向き合う覚悟なんてできて居なかったんだ。
────自分から七星に正体を打ち明ける……それでようやく、七星と向き合う覚悟ができていると言える。
「真霧くん!そろそろ着替えないと間に合わないよ〜!」
「悪い、すぐに行く」
色々と考えるべきことはあるが、今はひとまず文化祭に集中することにして、俺は執事服を着ると髪を上げたヘアセットをした。
クラスメイトたちが売上一位を目指して努力したことが実るように、俺も全力で自分にできることをしよう。
そう心の中で意気込むと────いよいよ、文化祭二日目がその幕を開けた。
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