第105話 したかったこと
「あれ、真霧くん?執事服着てないのに髪上げてるの初めて見たよ〜」
俺が、七星の視界に映らないように陰から七星のメイド服姿に目を奪われていると、後ろから声をかけられたため、俺はその声の方へ意識を移す。
すると、そこにはクラス委員の女子生徒が居た。
「こんなところで何してるの?」
「あぁ、すごい人気だと思ってな」
「そうだね〜!七星さんがうちのクラスに居てくれて本当に助かったよ……それはそうと────」
クラス委員の女子生徒は、俺の横にやってくると小さな声で言った。
「今日、真霧くんと七星さんが二人で一緒に文化祭回ってたって聞いたけど、あれって本当なの?」
「本当だが、よく知ってるな」
「七星さんなんて、あんなに可愛いのに今まで男っ気無かったのにそれが突然男の子と二人で文化祭回ったりしてて、真霧くんに関しては最近女子人気最高潮みたいな感じだから、そんな二人が一緒に文化祭回ってたらそれはもう噂の一つや二つも回ってくるよ〜」
学校内のコミュニティというものにはあまり興味が無かったが、その情報伝達速度は俺が思っている以上に速いのかもしれないな。
「まぁ、でも妬んでる人とかは少ないんじゃ無いかな?むしろ、二人とも美男美女でお似合いって感じだし」
「七星はともかく、俺は自分のことを美男だなんて思ってないけどな」
「え〜?まぁ、自分じゃわからないことってよくあるもんね〜」
クラス委員の女子生徒は納得したようにそう言って頷くと、続けて俺に向けて明るい声で言った。
「とにかく!明日の午前の執事喫茶の時は、真霧くんが今の七星ちゃんと同じように客寄せだから、七星ちゃんぐらい人集めれるように頑張ってね!」
「努力はする」
「うん!それで大丈夫!絶対売上一位獲ろうね!!」
「あぁ」
「じゃあ、私メイド喫茶の様子見てこないと行けないから、またね!」
そう言うと、クラス委員の女子生徒は、七星によって行列のできているメイド喫茶前の方へ向かうと、どうにかメイド喫茶の中へと入って行った。
「……七星ぐらい、か」
偽りの存在を積み上げて来た俺と、どんなものにでも真っ直ぐで正直な七星とでは、性格から考え方、雰囲気まで何も違う。
それを考えれば、客寄せという部分において俺が七星と同じぐらいに人を集めるというのはおそらく不可能だ。
だが、それでも────俺を信じて役目を託してくれる人間が居るのであれば、その期待には応えたいと思える。
「……俺が、この高校生活の中で、クラスメイトにこんなことを思う日が来るなんてな」
そんな自らの変化をどこか不思議に思いながらも、残りの文化祭一日目の時間は、文化祭の賑わっている雰囲気を堪能するように校内を歩き回って過ごした。
◇七星side◇
七星がメイド服を着て客寄せを始めてから30分が経過した頃。
「あ!七星ちゃん!可愛いね〜!」
水城が執事&メイド喫茶の前までやって来ると、七星のことを見て明るい声でそう言った。
「あ!葵先輩!」
水城のことを見た七星は、思わず水城の方に駆け寄る。
「来てくれたんですね!」
「可愛い七星ちゃんのメイド服姿はちゃんと見ておかないとね〜!それに────」
七星との距離を縮めると、水城は七星にだけ聞こえる声で言った。
「お化け屋敷で一緒に来てた人と、結構良い感じだったから、その詳細も聞きたかったんだよね」
「っ!?ど、どうしてそのことを!?」
「それは、私のクラスのお化け屋敷で、私は覆面被ったお化けとして七星ちゃんのこと目の前で驚かせたからだよ……暗くて顔とかは見えなかったけど、七星ちゃんの声と、七星ちゃんが誰かと手を繋いでるのは見えたかな〜」
「っ……!」
そう言われた七星は、恥ずかしさで思わず顔を赤くする。
「それにしても、七星ちゃんが一緒に来てた人は私が驚かせても全く驚かないなんてすごいね〜!一緒に居た人が、前に言ってた七星ちゃんの好きな人なんでしょ?」
「は……はい……!」
「手も繋いでたぐらいだし、お化け屋敷の暗闇に乗じてそれ以上のこともした?」
「っ!?し、し、してません!!」
恥ずかしがって大きな声でそう否定する七星のことを見て、水城は口元をニヤニヤさせる……すると、七星との距離を縮めるのをやめて言った。
「でも、雰囲気だけでも結構良い感じだったと思うから、今度その人のことを家に誘ったら、前七星ちゃんがその人としたかったこともできると思うよ?」
「前、私がしたかったこと────っ!葵先輩!!」
七星がそのことを想像して、もはや限界な程に恥ずかしさを抱いていると、水城は明るい声色で言った。
「からかいすぎちゃったね〜!でも、あの感じなら本当にあとちょっとだと思うから、頑張って!応援してるよ!」
そして、水城は七星に手を振ると、出し物の方への応援の言葉も残してこの場を去って行った。
「もう!葵先輩は本当に……!でも、私と人色さんって、良い感じ……なのかな……前は私が変に焦っちゃったせいで変な空気になっちゃったけど、次家に誘ったら、もしかして、人色さんとそういうことになっちゃったり……!?」
七星は、今度こそやって来るかもしれない霧真とのその瞬間に頬を赤らめるも、今はひとまず目の前の客寄せに集中することにした。
そして────文化祭一日目終了後、自室に戻ったあと、七星は霧真とそういったことをするときの想像をしてしまうと、一人でその恥ずかしさに悶えて過ごした。
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