第103話 何度でも言えますよ?

「……さっきまで雰囲気とかちょっとだけ通ってる風とかのせいで怖かったですけど、人色さんと手を繋いだら、なんだか一気に安心できました!」

「それは良かった」


 今の所、ホラーを演出する音楽に人形、不気味な置物などがあるぐらいで驚き要素が無いから七星も大分安定して来たようだ。

 だが、このお化け屋敷がその本懐である人のことを怖がらせるというところに本気なのであれば、おそらくそろそろ……

 そんなことを思いながら、七星と通路の曲がり角を曲がると────


「ぐあぁぁ」


 ソンビのような被り物をした人物が曲がり角から突如腕を伸ばしてきて────


「きゃああああああああああああああっ!!」


 七星はお手本のように絶叫を上げ、繋いでいる手に込める力を強めた。


「大丈夫か?」

「だ、だ、大丈夫です!!」


 そう言いながらも、七星は俺と繋いでいる手の力を緩めない……これは、大丈夫じゃないな。

 俺はゾンビの被り物をしている人に軽く会釈すると、七星を連れて少し先に進むと足を止めて七星と向かい合う。


「少しここで休憩して行こう」

「っ……!す、すみません!」

「気にしなくていい、苦手なら仕方ない」

「あ、ありがとうございます……でも……」


 七星は俺に感謝の言葉を伝えた後、そう付け加えてから少し間を空けて言う。


「その……こんなこと言うのもなんですけど、今日ここに人色さんのことを連れて来たのは、なんていうか……大好きな人色さんに触れられる機会になったらなっていう、邪な考えで連れて来たんです」

「……素直だな」

「……本当は、もうちょっと余裕あって、人色さんのこともドキドキさせるぐらいのつもりだったんですけど、想像以上に怖くて……結果的にこうして人色さんと手を繋ぐことはできてますけど、私が本気で怖がってて人色さんにこんなことしてもらっちゃってたら、ただ人色さんの優しさを利用してるみたいっていうか……こうして気を遣わせたりして、ただ迷惑かけちゃってて、ごめんなさい」


 お化け屋敷という状況に怖さはありながらも、自らも積極的に、いわゆるアタックというものを行って俺との身体的距離を縮めるというのが七星の理想。

 だったが、今はただただ自らがお化け屋敷に怖がってしまい、ただ迷惑をかけてしまっている、と七星は思っていて、そのことに謝罪をしてきた。

 それに対して、俺は首を横に振って言う。


「俺は迷惑だなんて思ってないから謝らなくていい……それに、お化け屋敷に行くとなった時から七星にそういう意図があるのはわかってたからな」


 まぁ、これは事前に真霧色人として七星と水城先輩の会話を聞いていたからだが。

 俺がそう返事をすると、七星は驚いた様子で言う。


「え!?わ、わかってたんですか!?」

「あぁ……だから、こうして手を繋ぐことだって可能性としては頭に入っていたから、七星が謝る必要はどこにもない」

「で……でも、そんな邪な理由で誘っておいて、気を遣わせて────」

「ホラーが苦手なのは本当なんだろ?というか、そんなことは聞かなくたってもう長いこと七星のことを見てきた俺にはわかる……なら、そういう時は誰かに頼るのが普通だ、違うか?」

「人色さん……人色さん!」


 七星は俺の名前を呼ぶと、俺のことを正面から抱きしめて来た。


「大好きです……大好きです、人色さん!」

「っ……」


 暗くて俺たちが誰なのかは、この出し物を出しているクラスの人たちには見えないと思うが……


「こんなところで、よく堂々と言えるな」

「えへへ、何度でも言えますよ?だって、大好きですから」


 暗くて表情の判別は難しいはずだが、七星の明るい笑顔だけはハッキリと見えたような気がした。

 そして、俺たちは改めて手を繋ぐと、そのままお化け屋敷の出口まで進んだ。

 ところどころ、七星が悲鳴を上げることがあったが────その悲鳴は恐怖や驚きだけでなく、その恐怖や驚きすらも楽しいといった感じの悲鳴に変わっていた。

 苦手なものでも、全力で楽しんでいる……そんな七星は本当に眩しくて────俺は、文化祭でも、お化け屋敷でもなく、そんな七星と一緒に過ごせて居ることをとても楽しく感じていた。

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