第102話 文化祭一日目

◇真霧side◇

 文化祭当日の朝になると、俺は霧真人色として七星との待ち合わせ場所である特待別世高校の校門前までやって来た。

 すると、そこには制服を着た七星の姿があった。


「おはよう、七星」

「人色さん!おはようございます!」


 俺たちは出会って早々、互いに朝の挨拶をし合う。

 すると、七星が明るい表情で言った。


「もう文化祭始まってて、昨日も言った通り昼から私も出し物出ないといけないので、早速今から二人で文化祭楽しんじゃいましょう!」

「そうだな」


 ということで、早速二人で校内に入ると、その廊下を歩く。

 もう文化祭が始まっているというだけあって、廊下から中庭まで、屋台や人の数によってとても賑やかな雰囲気で包まれている。


「人色さんって、文化祭とか好きですか?」

「文化祭か……正直、前まではそうでも無かったが────」


 楽しそうにしている生徒たちや客の表情に、この学校全体に溢れている明るく楽しい雰囲気……加えて、クラスメイトと出し物の準備をする期間や、一緒に居て楽しいと思える相手とその文化祭を回れること。


「今は、好きかもしれないな」

「私もです!夏祭りとかとはまた違った雰囲気があって良いですよね!」

「あぁ」


 それからも二人で歩いていると、七星がある場所で足を止めて言った。


「人色さん!唐揚げ売ってるみたいなので、一緒に食べませんか?」

「良いな、食べてみよう」

「ありがとうございます!」


 俺たちは二人分の唐揚げを注文すると、一緒にその唐揚げを口に含む。


「美味しい〜!ていうか、こんなレベルの唐揚げ文化祭で出ちゃって良いの!?」

「確かに美味しいな」


 プロが作ったと言われてもおかしく無いレベルの美味しさだ。

 流石は特待別世高校の生徒の作った唐揚げといったところか。

 その後、俺たちは焼き鳥やポテトなどを食べ終えて廊下を歩いていると、七星が明るい笑顔で言った。


「人色さんと文化祭めちゃくちゃ楽しいです!告白した後会うの今日が初めてだったので、ちょっとだけ緊張もあったりしたんですけど、こうやって一緒に過ごしてるとそんなの全部吹き飛んじゃいました!」


 ……その七星の明るい笑顔が、相変わらず俺の目を奪っていると、七星は「あ、そうだ!」と何かを思いついたように声を上げた。

 そして、隣を歩いている俺の耳元に自らの顔を近づけると、俺の耳元で囁くようにして言った。


「好きです」

「っ……」


 突然の言葉に思わず声を漏らすと、七星は俺の耳元から離れ、頬を赤く染めて笑顔を向けてきて言った。


「えへへ、もう一回ちゃんと伝えときたくて伝えたんですけど、やっぱり照れちゃいますね……でも、好きな人に好きって伝えるのって、すっごく幸せです」


 ……相変わらず、七星は眩しいな。

 そんな七星と文化祭を歩くのが俺で良いのか、そして七星が好きになった相手が俺で良いのかはわからないし、正解があるのかもわからない。

 それでも────一緒に居る以上は、俺も七星に楽しく居て欲しい。


「私行きたいところあるので、着いて来てください!」

「わかった」


 七星に連れられて、3階までやって来ると────七星は、お化け屋敷の前で足を止めた。


「ここです!」

「……」


 確か、水城先輩が「もしかしたら怖がってる七星ちゃんと手繋いでくれたり、怖がってる七星ちゃんのことをその人が後ろから抱きしめてくれるかもしれないよ?」なんて言っていたな。

 だが、当然俺はそんなことを学校でするような性格では無いため、七星には悪いがそんなことをするつもりは無い。


「入るか」

「はい!」


 そして、俺たちがそのお化け屋敷の中に入ると────その瞬間。

 防音になっているのか、先ほどまで聞こえてきた賑やかな音は聞こえなくなり、ほとんど光が消えておどろおどろしい雰囲気になった。


「こ、ここ、私の先輩のクラスの出し物なんですけど、結構本格的ですね」

「あぁ」


 足元に風のようなものが通っていたり、すぐ横にかけられている人形のようなものもホラーとして本格的な雰囲気だ。

 この部分の技術も流石は特待別世高校の生徒の力量が出ていると言える。

 とはいえ、俺は特にホラーは苦手ではないためそのまま足を進めようとした────が。


「……」


 隣に居る七星が声には出ていない、というか声が出ないほどに本当にこのお化け屋敷の雰囲気を怖がっているのが見て窺えた。

 高校生の文化祭で出てくるお化け屋敷のレベルを覚悟して入ってこのクオリティのものが出てきたら、ホラーが苦手だという七星がそうなってしまうの無理はない。

 ……こうなってしまった以上は仕方無い。

 俺は、固まってしまっている七星の左手を、右手で握って言った。


「行くか」

「っ……!は……はい!」

「そんなに怖がらなくても大丈夫だ、これは出し物だから本当に何かが出るわけじゃない……もし怖くなった時は、俺と握ってる手に意識を向けてくれ」

「わ……わかりました!」


 そう言うと、七星は俺と手を握る力を強め、俺たちはそのまま二人で手を繋いだままお化け屋敷の中を歩き始めた。

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