第99話 一途
────翌日の朝。
特に早くも無く遅くも無いいつも通りの時間に学校に登校して教室に入ると、髪を上げたヘアセットをしているわけでも無いのにクラスメイトたちが一斉に俺のことを見てきた。
が、俺は特に気にせずにいつも通りの動きで席に座る。
すると、二人の女子生徒が俺の席までやって来た。
「ねぇねぇ、真霧くんって放課後どんなことしてるの?」
「決まって毎日してることは無い、強いて言えば一週間の半分以上はジムに行くように決めているぐらいだ」
「え〜!意外!だけど、昨日の髪上げてる真霧くんだったらイメージ合うかも!」
「そうか」
俺が短くそう答えると、女子生徒の一人が言った。
「なんか、目元見えなくて話しかけないでオーラすごかったから暗い感じなのかなっていうか、もっと話しづらい感じなのかなとか勝手に思ってたけど、全然そうじゃ無いんだね」
「ね〜!こっちが上がってる感じで話しても普通に話しても一定で落ち着いてくれてるから話しやすいよね!」
「わかる〜!」
それから、女子生徒二人は俺が特に何も言わなくても盛り上がって話をしていた……よくわからないが、楽しそうで何よりだ。
「じゃあまたね!真霧くん!」
「あぁ」
クラスメイトにまたと言われたからには頷くしか無く、俺が頷いてそう答えると、二人は楽しそうに話をしながら歩いて行った。
すると────続けて、七星が話しかけてきた。
「おはよう、真霧」
「おはよう、七星」
「おはよう、七星────じゃないから!!」
いつも通り挨拶を返しただけにも関わらず、何故か七星は怒ったような声でそう声を上げると、続けて言った。
「ねぇ!昨日私の居ない放課後で何してたの!?いや、何してたかは聞いてるんだけど!!目立ちたく無いんじゃなかったの!?」
「今まで目立たないように協力してもらってたのに、悪かったな」
「それは良いけど!何で今になって目立つようなことしたの?」
「出し物の質に関わるなら、髪を上げるぐらいはしないといけないと思ってな」
「それは、良い心掛けだと思うけどさ〜!もう!昨日モデルの仕事終わって家に帰ったらクラスの子の過半数から真霧について聞かれたら私の身にもなってよ!!」
七星は今まで目立ちたく無いという俺の意見を尊重して、できるだけ教室では俺に話しかけて来ず、屋上で俺と話すようにしてくれていた。
が、二人で何度も屋上へ移動していれば、当然目撃者は出てきて、その目撃者から噂が回り、髪を上げた姿を見て俺への興味を抱いた人物たちが、仲介役として俺とよく話しているであろう七星にメッセージを送ったのだろう。
「それは迷惑をかけたな」
「はぁ、別に良いけどさ、ていうか葵先輩も言ってたけど、真霧って髪上げたらそんなにカッコいいの?友達がモデルとか俳優でも全然行けるとか言ってたんだけど」
「さぁな、俺はその辺りの基準に詳しく無いからな」
俺が素直にそう答えると、七星が落ち着いた声音で言った。
「ふ〜ん?ま、私の好きな人の方が絶対カッコいいから真霧の顔がどれだけカッコよかったとしても興味無いけどね……私超一途だから!」
「……そうか」
その七星の言葉を聞いて、何とも言えない気持ちになった俺だったが、そんな俺の気持ちを吹き飛ばすほど大きな声が真後ろから聞こえてきた。
「色人くん〜!おはよう!」
「……おはようございます、水城先輩」
俺はその声の主である水城先輩にそう挨拶を返すと、水城先輩が相変わらず明るい雰囲気で言った。
「私のクラスはもう出し物決まったんだけど、二人のクラスはもう出し物決まった?」
「はい、メイド&執事混合喫茶になりました」
「えぇ!?そ、それって色人くんの執事服姿が見れるってこと!?」
「時間が合えば、そうなりますね」
「え〜!お姉さん、文化祭に楽しみ一つ増えちゃったよ〜!」
水城先輩が楽しそうな声でそう言っていると、七星が言った。
「そのことなんですけど、聞いてくださいよ葵先輩!なんか、昨日私はその場に居なかったんですけど、その執事服を試着するっていう機会があったらしくて、そこで真霧が髪を上げた途端にクラスの女子みんな真霧に興味持ち始めちゃって、超大変だったんですよ!」
大変さを出してはいるものの、あくまでもいつも通りの雰囲気でそう告げた七星────だったが。
「……」
七星からその話を聞いた水城先輩は、どこかいつもと雰囲気が違っていた。
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