第98話 超イケメン

◇真霧side◇

「売上一位獲るぞ〜!」

「おおおおおおおお!!」


 ────文化祭の出し物決めの時間。

 先生からクラス委員の男女二人に進行が任された途端、クラス委員が声を上げると続けてクラスメイトたちも大きな声を上げた。


「じゃあ早速!案がある人は意見出して!」

「オリジナルブランドの作成!」

「ロケット制作!」

「プロ選手とのスポーツ試合!」


 クラスメイトたちが次々に意見を出して行く。

 こんなこと、おそらく他の学校であれば笑い話になるんだろうが────この特待別世高校においてはそうではない。

 生徒たちは、それぞれ特化した技術を持っているため、本気で取り組めば今挙げられていることもできてしまうという可能性がある。

 ちなみに、もし俺が本気を出す場合、最初に挙げられた中で力になれそうなのはロケット制作とスポーツ試合ぐらいで、オリジナルブランドの作成に関しては全く力になることはできないだろう。

 そんなことを思いながらクラスメイトたちから出される意見に耳を通していると、明らかに今まで出た意見とは異色なものが出た。


「メイド&執事混合喫茶!」


 その言葉を聞いたクラスメイトたちはざわつき始める。


「え〜!メイドとかやばくない?」

「でも、アリかも……」

「売上っていう意味なら結構良いよね?」

「ていうか、うちのクラス何人かファッション系の子居て、何より七星ちゃん居るから行けるって!」


 そんな声が聞こえてくると同時に、皆が七星の方を振り向く。

 俺もなんとなく七星の方を向くと、七星はとても動揺した様子で言った。


「え!?わ、私?別に良いけど、私メイド服とか着たことないから、着こなせるかわかんないよ?」


 そこからはとても早く、クラスメイトたちによる「七星ちゃんなら絶対可愛くなるよ!」や「七星ちゃんだけじゃなくてみんなで頑張れば良いしね!」など、クラスの仲の良さが窺える発言で教室中が埋まり────


「じゃあ、私たちのクラスの出し物はメイド&執事混合喫茶で決定!みんな!全力で最高の文化祭にしようね!!」


 クラス委員がそう言うと、教室中は大きなやる気溢れる声で溢れ返った。

 ────昼休み。

 俺と七星は、二人で一緒に屋上で昼食を食べていた。


「もう〜!みんな期待してくれてるけど、メイド服なんて本当に着たことないから似合うかわかんないよ〜!」


 七星ならどんな服でも似合うだろうと言いたい俺だが、メイド服に関してはあまり知識が無く、系統も違いすぎるため軽はずみなことは言えないな。


「ていうか!よく考えたら、もし誰か校外の人呼ぶってなったら私のメイド服姿見られちゃうかもしれないってこと!?待って待って、恥ずかしい!私好きな人呼ぶつもりだったのに!!時間ずらした方が良いかな〜!」

「それは大丈夫だ、七星の好きな人は七星がメイド服を着ていようと着ていまいと、七星と一緒に居れる時間を楽しいと思っていると思う」


 俺がそう伝えると、つい先ほどまで慌てた様子をしていた七星は、どこか落ち着いた様子で俺のことを見て言った。


「不思議だね、真霧はあの人と会ったことないはずなのに……真霧がそう言ってくれると、なんだかすっごく安心できるよ」

「……それは良かった」


 俺は、七星のその発言に複雑な気持ちを抱きながらも、七星と一緒に昼食を食べた────その後日。

 文化祭の準備ということで、放課後になるとモデル業がある七星やその他用事のある生徒たち以外で集まって、今日は購入した執事服を男子全員で試着するという日だ。

 ということで、全員が執事服を着てみたわけだが、それぞれサイズ感などを事前に伝えていたからか、サイズが合わないという問題は誰にも起こらなかった。

 そして、この場に女子が居るのは、女子からの評価を聞いて執事として改善できる点があればそれを聞くためだ。


「どうだ?女子たち!何か意見があったら遠慮なく教えてくれ!」


 男子の一人がそう言うと、女子たちは俺たちの方を見て言った。


「うんうん、良い感じなんじゃない?」

「執事服着るだけで雰囲気一気に変わるよね〜」

「わかる〜」

「あ、でも……」


 一人の女子が微妙な声を上げると同時に俺の方を見て固まると、他の女子たちも俺の方を見て固まった。


「俺に何か問題があるのか?」

「問題ってわけじゃないんだけど、髪が目で隠れちゃってるとせっかくの執事服が映えないって感じ」

「……つまり、切るなり上げるなりしたほうが良いってことか?」

「うん、あ、でも別に無理にとは言わないからね?」

「そうそう!真霧くんの意思最優先!」


 髪を上げることで目立つのはあまり好ましくないが、俺のせいで出し物の質を下げるのはもっと好ましくない。

 それに、これは能力面でなく、あくまでも髪を上げるだけ……そして、幸いなのかどうか、今は七星がこの場に居ない。

 ────なら、七星と向き合うための一歩として、自らに少し変化を加えてみても良いのかもしれない。


「わかった……なら、すぐに終わるから待っててくれ、上げてくる」


 それだけ言うと、俺は鏡のある場所に向かって常備しているスタイリング剤を手に取ると、それを髪に付けて髪を上げたヘアセットをする。


「……学校でこの髪型をする日が来るなんてな」


 俺はそんな自らの変化に少し驚きながらも、スタイリング剤をポケットに入れてクラスメイトたちの待つ教室へ向かう。

 ……これでもダメだと言われてしまえば打つ手が無いが、果たしてどうなるか。

 そんなことを思いながら教室の前に到着すると、俺はそのドアを開けて教室の中に入った


「あ!おかえり真霧く────ん……?」


 女子の人が俺にそう声をかけるが、何故か最後になると疑問系になった。


「どうしたんだ?」

「え?そ、その声にその格好……ま、真霧くん、なんだよね?」

「そうだ」

「……」


 それから、教室中が一瞬だけ静寂に包まれた後────


「え!?ちょ、超イケメンじゃん!」

「おいおい、マジかよ!」

「これは女子のメイド喫茶にも負けねえかもしれねえぞ!」

「ちょ、待って、顔めっちゃタイプなんだけど……」


 もはや全員が一斉に驚きの声を上げていて何を言っているのか正確には聞き取れないが、どうやら全員俺に対してプラスな感情を向けてくれていることだけは間違いない……そのことに、俺は安堵する。

 髪を上げただけでそんなことが起きるなんてことは無いとわかっていたが、俺のせいで楽しくしていた人たちが楽しく無くなるのは……避けたかったからな。

 ……この文化祭で俺が七星に執事姿を見られる機会があるのかはわからないが、もしそんな機会があるとするなら────その時こそ、俺が七星と向き合う時だ。

 俺がそう覚悟を固めていると、クラスメイトたちが俺に話しかけてきたため、今まであまり人と関わって来なかった俺は、この学校に入学してから一番長い時間クラスメイトたちと話をした。

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