第97話 七星一羽という存在が
◇真霧side◇
人に自らが悩んでいることを話すこと、ましてやこの内容を七星に伝えて良いものかどうかわからない……というか、伝えるのはきっと情けないことなんだろう。
だが、悩んでいることを隠したせいで七星に変な不安を与える方が嫌だと思った俺は、その内容を七星に話すことにした。
「七星は、好きな……いや、もしも大事な人が、自分に隠し事をしながら接して来ていたらどう思う?」
好きな人と言うと俺を連想されてしまう可能性があるため、大事な人と定義することにして聞いた。
すると、七星が明るい声で言った。
『別に何も思わないです!むしろ、隠し事の一つや二つあって普通なんじゃないですか?』
「それは、そうなんだが……それがもし、今までの関係を覆すようなものだったとしたら、どうだ?」
『関係を覆す……?そんなことあるかわからないですけど、私はその人がその人ならやっぱり何も思わないと思います!』
その人がその人なら……俺に当てはめた場合、果たしてその人はその人だと言えるんだろうか。
学校では、名前は真霧色人本人として過ごしているが、平凡なフリをするために本当の力は出さず、霧真人色として過ごしている時は名前や、本当は真霧色人として七星と同じ学校に通っていることなどを隠している。
「……」
最初の方は、七星にどう思われようが、どうせ七星と関係を断つのが目的だからと七星に自らのことを偽るのは必要な手段だと合理的に判断して、それに対して何かを思うようなことは無かった。
だが、今は……今は、おそらく……俺は、傷付いている七星のことを見たくないと思っていて、そう思うのは────俺の中で、七星一羽という存在がいつの間にかとても大きな存在になっているからだ。
『……人色さん?大丈夫ですか?』
「あ……あぁ、大丈夫だ、参考になった、ありがとう」
『なら良かったです!』
それから、少し間を空けると七星が不安そうに聞いてきた。
『ところで、人色さん……こんなこと聞くのもアレなんですけど、私からの告白迷惑じゃ無かったですか?』
「好意を伝えられたのに、迷惑だなんて思うはずがない」
『よ、良かったです!私は、その……こんなこと言って良いのかわからないですけど、今まで誰も好きになったこと無かったので、告白される相手は全員異性としては興味無い人ばっかりで、告白される度にちょっと困ってたので、もしかしたら人色さんも同じ風に感じて無いかなって心配で……』
「それは興味の無い相手だからだ、俺は────」
そう言いかけたところで、俺は口を開けたまま声を発するのをやめる。
……俺は?
俺は……七星のことをどう思ってるんだ?
……興味の無い相手だからだということを自然に反証として使っているということは、俺は興味の無いとは反対の意見を七星に対して抱いているということになる。
「……」
そうか……まだ明確にわかったわけじゃないが、俺は七星に対して少なからずの────
『すみません、今何か言いかけてましたか?』
俺が途中で言葉を発するのをやめたのが気に掛かったのか、七星がそう聞いて来たため、俺は間を空けずに言う。
「悪い、なんでもない……とにかく、俺は七星の告白を迷惑だとは考えていないから、そのことはわかっていて欲しい」
『っ……!わかりました!ありがとうございます!』
その声だけで、七星が今笑顔になっているのが容易に想像できる。
「……俺の話に付き合ってもらって悪かったな、今日はこのぐらいにしよう」
『はい!今日は突然だったのに電話してくれてありがとうございました!嬉しかったです……!』
「あぁ、じゃあな、おやすみ』
『おやすみなさい、人色さん!』
俺たちはそう言い合うと、電話を終えた。
◇七星side◇
「びっっくりした〜!もしかしたら、人色さんが私の告白に対して良い返事くれるのかと思っちゃった!!」
そう大きな声を出した七星は、ベッドの上で足をバタバタとさせる。
「あ〜!ていうか、当日電話してくれる人色さん優しい〜!メッセージもすぐ返事くれるし……あぁ、好き〜!何か悩んでるみたいだったからできたらまた力になりたいけど、今は……人色さんのことが好きってこと以外何も考えれない!!」
それから、七星はしばらくの間ベッドの上で足をバタバタとし続けると同時に、霧真への愛を叫び続けた。
◇水城side◇
────同じ頃。
水城は、ベッドの上で今日霧真とカフェで過ごした時間のことを思い出す。
「あぁ、色人くんの左頬にキスしちゃったって思ったら、今日は完全に色人くんのことを男の子としてしか見れなかったな……でも……君がカッコよくて優しくて、抱きしめてあげたくなる雰囲気してるのが悪いんだよ……また、デートしたいな……」
そう呟いた水城は、枕のことを真霧に見立てて、その枕のことを抱きしめたままとても幸せそうな表情で眠りについた。
────三人の恋模様の強い二学期は、まだまだ始まったばかりだ。
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