第96話 初電話

 しばらくの間水城先輩と心地良い時間を過ごした後、カフェから出ると俺たちは隣り合わせで帰り道を歩く。


「水城先輩、一つ聞いても良いですか?」

「うん、何?」


 水城先輩の隣を歩いていると、ふと疑問が浮かんだため俺はそう確認を取ると、水城先輩からの返事を聞いて言う。


「水城先輩は、前から俺に良くしてくれてますけど、それには何か理由があるんですか?」

「良くしてるなんて上から目線なつもりでしてるわけじゃないよ?ただ私がしたいからしてるだけ……でも、理由なら確かにあるよ」

「なら、どんな理由なんですか?」


 理由があるということがわかり、俺は自然な流れでその理由というものを知るべく水城先輩にそう聞いた────が。


「教えてあげても良いけど、それはまたいつかね!それまで、色人くんもちょっと考えて置いて」


 水城先輩が俺に良く接してくれる理由……単純に考えれば、俺が水泳大会の時に水城先輩が負傷していて泳げないのを代わって泳いだことや、水泳練習に付き合ったこと────


「って言ったら、現実的な色人くんがすぐに考え付きそうなのは私が水泳大会で色人くんに助けてもらったこととか、水泳練習に付き合ってもらったこととかだと思うけど、それはあくまでも間接的なものであってその理由の答えとは別のものだよ」

「……よく俺が考えていることがわかりましたね」

「一応君より一つ年上のお姉さんで、君ともかなりの時間過ごしてきたからね〜!君の考えてることなんて簡単にわかっちゃうよ〜」


 そんな会話をしていると、やがて俺と水城先輩の家へ続く分かれ道がやって来た。


「それじゃあ色人くん、今日はここまでだね!その理由の答えはいつかちゃんと教えてあげるから、色人くんもよく考えててね!」

「わかりました」


 そう明るく言った水城先輩は、俺に手を振るとそのまま帰り道を走って行った。

 ……水城先輩が俺に良くする理由について考えて答えを出すのは今すぐには難しいため、時間をかけて考えることにしよう。

 そのまま家に帰った俺は、夜ご飯とお風呂を済ませると、自室に入った。

 ────そのタイミングで俺のスマホの通知音が鳴ったためスマホの画面に目を通すと、久しぶりに七星からのメッセージが届いていた。

 俺は、何かあったのだろうかと思いメッセージを開く。


『人色さん!今日は急なので難しいかもですけど、明日でも明後日でも、良かったらで良いので電話しませんか?ちょっとお話したいです!』


 そんなメッセージに対して、俺は文章を入力し返事をする。


『わかった、俺は別に今からでも構わない』


 すると、すぐに七星からの既読が付く。


『ほ、本当ですか!?じゃあ、かけますね!』


 そう送られて来た直後、七星からの着信が入ったため俺はそれに出た。



◇七星side◇

「も、もしもし!」


 まさか霧真が今から電話に応じてくれるとは思っていなかった七星は、少し緊張してそう言う。

 すると、直後。


『もしもし』


 スマートフォンから霧真の声が聞こえ、七星の感情は大いに昂る。

 ────と、人色さんの声……!ていうか、人色さんと初電話!え〜!待って、なんか好きな人と電話するのってドキドキする……!

 そんなことを思いながらも、七星は声にはその感情を出さずに言う。


「い、いきなり電話したいなんて言っちゃってすみません!」

『別にいい、ちょうど今日やることは全部終わったところだったからな』

「そ、そうなんですね!」


 ────人色さんと電話してると思ったら口元ニヤけちゃう……!ニヤけると声にも出ちゃうかもしれないから抑えて、私……!


「最近、仕事で忙しくて全然人色さんと連絡取れてなかったんですけど、あとちょっとしたら落ち着くと思うのでまた一緒に遊んだりしましょう!」

『あぁ、そうしよう』


 そんな普通の会話。

 霧真とそこまで接していない人であればこの電話越しの声で何も違和感を感じることは無かったかもしれないが、七星は長い時間を霧真と過ごして来ていて、さらには霧真に好意を抱いている。

 そのため、霧真の微細な変化にも気が付く。


「人色さん、なんかちょっと元気無いですか?」

『そんなことは────』


 七星の問いかけに否定から入ろうとした霧真だったが、その言葉を途中で止めると、再度言った。


『そうかもしれないな……実は、最近ずっと考えてることがあるんだ……七星さえ良かったら、聞いて欲しい』

「っ……!」


 以前までの霧真であれば、七星が心配しても一人で悩み続けていただろうが、今はそうではなく、七星に話を聞いて欲しいと言っている。

 そのことが、七星は堪らなく嬉しく、明るい声で言った。


「何時間でも聞きます!人色さんのお話、聞かせてください!!」


 それから、七星は少しでも霧真の力になりたいと願い、どうにか一度緊張と興奮を取り省くと、霧真の話に意識と耳を傾けた。

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