第93話 二学期
────二学期始業式当日。
最後に制服を着てからまだ一ヶ月ほどしか経っていないはずだが、この夏休みの間で様々なことがあったため、俺は数ヶ月ぶりという感覚で制服に袖を通した。
そして、俺は鏡に映る真霧色人としての俺の姿を見る。
「……」
真霧色人として俺が目立つわけにはいかないからこそ、こうして目元の隠れた髪型をしているわけだが……もし今日、霧真色人の時のヘアセットで学校に登校したら?自らを偽ることなく七星と関わることができたら?
七星に告白されてからそんな考えが頭の中に浮かんでいるものの、そんなことをすれば学校で目立ってしまうことになるからしてはいけないという自分も居る。
「考えすぎても同じ思考が頭の中を回るだけで意味が無いな……少し早いが学校に登校するか」
ということで、俺は学生鞄を持つと家を出て学校へ向かった。
そして、久しぶりに学校に登校して教室の中に入り、席に着くと────
「おはよ〜!真霧!一ヶ月ぶりだね!」
まだほとんど教室には人が居ないような時間帯にも関わらず、もうすでに教室に居た七星が俺に話しかけてきた……制服姿の七星のことを見るのも一ヶ月ぶりだな。
「あぁ……それにしても、登校が早いんだな」
「もう〜!久しぶりなのに言うことそれ!?真霧は相変わらずだね〜!今日はせっかくの始業式だから、友達とか来たら一発目に挨拶したいなって思って早く来ちゃった!もちろん、真霧もその友達の中の一人だからね!」
七星は俺に笑顔を向けて言う……友達、か。
別の人間としてとは言え、告白された後でそう言われると少し違和感が残るがどう考えたってそれは俺のせいのため仕方がない。
俺がそんなことを考えていると、奇しくも七星が今俺が考えていたことと同じことを口にした。
「ていうか聞いてよ!私、この夏休みに気になる人とたくさん出かけて、最後に夏祭りに行ったんだけど……その時に告白したの!」
「……そうか」
「そう!それで、告白できた〜!って舞い上がってたんだけど……付き合ってくださいって言うの忘れてたの!!もう、本当最悪〜!!それはそうと、二学期────」
「っ……」
とても悔しそうに言う七星の言葉を聞いて、俺は少し複雑な気持ちになった。
そうか……本来、告白にはセットで付き合うという申し出があるんだったな。
……それなら、七星がそれを言い忘れてくれたのは、七星には悪いが俺にとってはありがたいこととも言える。
もしあの場で告白だけでなく、付き合ってほしいとまで言われていたら、俺は────
「真霧、聞いてる?」
「……え?あ、あぁ、七星の気になる人に告白をしたって話だよな」
「それもう前の話!今は二学期にある文化祭楽しみだよねって話!」
「そうだったか、悪い」
「別に良いけど!あ〜!文化祭楽しみ〜!」
俺は特に文化祭が楽しみというわけではないが、隣に居る七星はとても楽しそうにしていたため特に何も言わずに楽しそうにしている七星のことを観察していると────俺は突如後ろから抱きしめられた。
「おはよう〜!色人くん!お姉さんからのハグ嬉しい?」
「おはようございます水城先輩、嬉しいかどうかと聞かれるとわかりません」
「もう〜!二学期になってからも、お姉さんは君のこと色々と心配してあげないといけないんだね〜」
そんな光景を見ていた七星が、照れた様子で慌てて言う。
「あ、葵先輩!前真霧が避けた時とは違って、今度は本当に真霧のこと抱きしめちゃってますけど良いんですか……!?」
「もちろんだよ、前にも言ったけど一種のコミュニケーションだからね……まぁ、色人くん以外にこんなことしないけど」
最後の部分だけを俺にだけ聞こえるように言った水城先輩に対して「どうして俺だけなんですか」と少し呆れながら聞いたが、水城先輩は俺に笑顔を見せるだけで何も答えなかった。
そして、水城先輩が俺のことを抱きしめるのをやめると、七星がそんな水城先輩の行動を見終えると、雰囲気を切り替えるようにして言った。
「な、何にしても、真霧と水城先輩、二学期もよろしくお願いします!」
「あぁ、よろしく」
「よろしく〜!とっても楽しい二学期にしようね!」
その後、二学期の始業式が行われ────正式に、恋模様の強い二学期がその幕を開けた。
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