第91話 七星の告白
◇真霧side◇
「花火会場到着ですね〜!ていうか、人の数すごくて会場も広いですね!」
「そうだな」
花火大会の行われる場所に到着すると、七星がそんな声を上げたため俺はそれに頷いて賛同する。
実際、右を見ても左を見ても、前を見ても人がたくさん居て、流石は夏祭り会場のすぐ横で行われる花火大会の会場という感じだ。
俺がその人の多さに少しの驚きすら抱いていると、七星が改めて静かに周りを見てから言った。
「と、友達同士とか家族の人で来てるみたいな感じの人も多いですけど、やっぱり男女二人の恋人っぽい人とかも多いですね〜」
「花火のような綺麗なものを直接見れるとなれば、そうなっていても不思議は無いな……もっとも、俺は生で花火を見たことが無いから実際どの程度綺麗なのかはわからないが」
「そうなんですか!?」
驚いた様子でそう言う七星に対して、俺は頷いて答える。
当然テレビやインターネット、写真などであれば何度か見たことはあるが、実際にこうして足を運んで花火を見に来たというのは人生で初めてだ。
そのため俺が頷くと、七星は少し間をあけてからどこか照れた様子で頬を赤く染めて言った。
「じゃあ、私と一緒にこれから花火を見るのが、生で花火を見るのは初めて……ってことですか?」
「そうなるな……七星はどうだ?」
「私はほとんど毎年直接見に来てます!友達とか、家族とかと!」
七星は楽しそうな表情でそう言った……予想通りの返事だな。
七星が友達と一緒に直接花火を見ているところなんて、その場を目に映さなくても容易に想像できる。
明るい声音でそう言った七星だったが、次に七星はどこか声色や雰囲気を変えて言った。
「……でも、男の人と来たのは今日が初めてです」
「……七星?」
俺はその七星の声色や雰囲気の違いに少し疑問を抱いて七星の名前を呼んだが、七星は自らの胸元で自らの両手を握って言った。
「私、本当に、人色さんにはたくさんの初めてをもらいました……二人で一緒にお出かけしたり、ツーショット撮ったり、恋人のフリしてもらったり一緒に打ち上げ会場に行ったり、家に招いたり恋愛映画一緒に観たり、海に行ったり夏祭りを楽しんだり、今もこうして初めて男の人……人色さんと花火を見ようとしてたり……あとは────」
それらがとても大切な思い出であるかのように優しい口調で語った七星は、握っていた両手をゆっくりと下ろすと、俺と目を合わせて言った。
「私が誰かのことを好きになったのも……人色さんが初めてです」
「っ……?七星、今────」
七星の言葉に理解が追いつかずその旨を伝えるべく口を開いた俺だったが、七星はそんな俺の言葉を遮って言った。
「前!海の時に、どうして私が人色さんの右頬にキスをしたのかは、夏祭りの時に伝えるって言いましたよね?今!それを人色さんに伝えます!」
そう言うと、七星は俺との距離を縮めてくる。
そのタイミングで、花火の打ち上げアナウンスが始まった。
5、4、3、2、1とカウントが減っていく中で────七星は、俺に向けて大きな声で言った。
「私!人色さんのことが一人の男性として好きです!大好きです!初めて出会った時も一目惚れちゃってましたけど、今はその時とは比べ物にならないほど、大好きです!人色さん!!」
七星がそう言い終えた瞬間────近くから打ち上げ音が聞こえてきたかと思えば、その次の瞬間には連続的に大きな音が響き、それと同時にその眩しい花火は俺たちのことを照らしていて、七星の目には花火の光が綺麗に反射していた。
もはやこの場では、花火の音しか聞こえず、他の音は全て等しく無になっている……はずだが────花火じゃない何かが響いている音が聞こえる。
これは……俺の、心臓……?
どうして運動もしていないのに、心臓の動悸が激しく……それがどうしてなのかはわからなかったが、今はただ────その七星の綺麗で真っ直ぐな温かいものの込められた目から、目を離すことができなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます