第90話 人色さんと出会えて

◇真霧side◇

 七星とカップルだと言われてどう感じたか……あの時は俺と七星はカップルじゃないという、あくまでもあの店主の人が誤認識をしているという風にしか考えていなかったが、改めて答えを出すとなると俺はあの時どう感じたんだろうか。

 迷惑、とは思わなかったし、嫌だとも思わなかった。

 だが逆に、嬉しいとか喜びとかそういう感情かと聞かれれば、それもまた違う。

 それでも何か答えを出すとするなら────俺がそんな風に長考していると、七星が不安そうな表情で聞いてきた。


「もしかして、私とカップルって間違われるの……嫌でした?」


 どうやら、俺が長考してしまったせいで、七星に余計な心配をさせてしまったらしいため、俺はそれに対して即答して答える。


「嫌とは感じ無かった」


 俺が即答したことで、七星はその俺の言葉が本音だと理解してくれたのか、安心したように言った。


「嫌じゃなかったなら良かったです!私、そのことが不安で……」

「そんなことは無いから、安心してくれていい」

「あ、ありがとうございます!」


 七星が明るい声色でそう言った後は、二人で普段通り話しながらりんご飴を食べた……そして、りんご飴を食べ終えると、俺たちは夏祭り会場を歩く。

 それから俺たちは、射的、金魚掬い、輪投げと様々な屋台を楽しんだ。


「────人色さんすごいです!射的も金魚掬いも輪投げも全部成功させちゃうなんて!私そんなすごい人今まで見たこと無いです!」

「たまたまコツが掴めただけだ」

「たまたまじゃできませんよ!逆に、私は輪投げ以外できなくて、その輪投げすら二個しか入らなくて……はぁ」


 肩を竦めて落ち込んでいる様子の七星に対して俺は言う。


「人には得意不得意がある、七星は他に得意なことがもうちゃんと見えてるんだからそこまで落ち込まなくてもいい」

「そうは言っても、人色さんなんでもできちゃうじゃないですか〜!」

「俺にだって出来ないことはある、例えば七星のモデル撮影……要望されたことに一度の失敗も無く答え続けて表現することなんて、俺にはできない」


 あの撮影現場でスタッフの人が「七星さんって本当にすごいんですよ?基本的に全部一発でおっけー出る人なんて、ほとんど居ませんから」と言っていたことからも、そのモデルとしての実力は間違いない。

 そのことも思い出しながら俺がそう伝えると、七星が言った。


「人色さんって、本当に優しいですよね……私がちょっと落ち込んだだけでも気にかけてくれて、ただ慰めてくれてるってだけじゃなくて本当にそう思ってくれてるんだってことが伝わってきて……」


 そう言うと、七星は俺と繋ぐ手の力を強めると、頬を赤く染めて笑顔で言った。


「私、これから先、人色さんとどうなっちゃったとしても、人色さんと出会えて本当に良かったです」


 その笑顔は相変わらずとても眩しく、目を奪われてしまう笑顔だったが、俺はそんな七星の口から放たれた言葉に少し疑問を抱いた。

 ────これから先俺とどうなったとしても……?

 ……どういう意味なのかと聞きたかったが、それを聞けばこの七星の笑顔が一度途切れると思うと、俺にはその意味を聞くことができなかった。

 それから、そろそろ花火の時間になるということだったので、俺と七星は一緒にその花火の見える場所へと向けて歩き出した。



◇七星side◇

 七星が事前に決めていた告白のタイミングは、花火直前。

 その時は、もう間もなく訪れようとしていた。

 ────花火が上がったわけじゃないのに、身体中に大きな音が響いてる……私の心臓の音……今までできたことの無い好きな人に、今までしたことの無い告白……

 七星は今手を繋いで歩いている霧真のことを横目に見る。

 ────緊張するけど……それ以上に、早くこの気持ちを人色さんに伝えたい!

 七星が少し霧真と手を繋ぐ力を強めながら心の中でそう強く呟くと────その数分後、いよいよ七星と霧真は、花火大会の行われる場所までやって来た。

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