第89話 夏祭り

 夏祭り会場へやって来ると、案の定その会場には大勢の人が居たが、その分会場も広く屋台の数も多くまさに大盛況といった様子だった。

 すると、七星が大きな声で言う。


「人色さん!私、あのりんご飴食べたいです!」

「わかった、並ぼう」


 七星の提案通り、りんご飴を買うべく近くにあったりんご飴の屋台に出来ていた列に並んだ……それから少しして、俺はあることを口にする。


「やけに人に見られるな……七星と一緒に居るからか?」


 俺が思ったことをそのまま口にすると、七星は頬を赤く染めて驚いた様子で言う。


「っ!?そ、そんなことないですよ!」

「そんなことないって言っても、並んでる人……どころか、通りを歩いてる人もチラチラ俺たちの方を見てきてるのは間違いないと思うんだが」

「そ、それは私じゃなくて人色さんのこと見てるんですよ!人色さんカッコいいですから!」


 この人集りの中で、人気モデルの名は伊達じゃない容姿を持っている七星の浴衣姿以上に俺が人目を集めるなんていうことはまずないだろう。


「俺じゃ無くて、やっぱり七星が綺麗な浴衣姿をしてるからそれを見てるんだろう」

「違いますよ!人色さんのカッコいい姿にみんな目を奪われちゃってるんです!」


 俺たちがそんなことを言い合っていると、いつの間にか列の前の人が居なくなり俺たちの番となっていて、りんご飴の店主の人が話しかけてきた。


「らっしゃい、いや〜!お互いのことを堂々と褒め合うなんて、青春だね〜!」

「青春……?」


 俺にはよくその意味がわからなかったが、七星には理解ができたようで、何故か慌てた様子で両手を振って言った。


「そ、そういうのじゃないですから!」

「ははっ、で、サイズは小、中、大、どれにするんだい?」

「えっと、私は中で……人色さんは、どうしますか?」

「俺も中にしよう」


 俺たちが料金を支払うと、店主の人は俺たちにそれぞれ中サイズのりんご飴を渡してくれた。


「可愛い嬢ちゃんとカッコいい兄ちゃん、カップル二人で祭り楽しんでな〜!」

「カ、カップル……!?わ、私たちそういうのじゃないですから!!」


 俺と七星はカップルでは無いため、七星は店主の人に大きな声でそう言った。

 そして、店主の人の明るい笑い声を背に、俺たちは片手で手を繋ぎながらもう片手でりんご飴を持って夏祭り会場を歩き、人の少ないところで足を止める。

 すると、七星が言った。


「はぁ……変に顔熱くなっちゃいました」

「大丈夫か?」


 どこか顔を赤くして疲れた様子の七星のことを気遣うように言うと、七星は元気な様子で言った。


「も、もちろん大丈夫です!それよりも、りんご飴食べましょう!」

「そうだな」


 七星の様子は少し気になったが、せっかくの夏祭りで気を遣いすぎても楽しめないかもしれないため、俺はひとまず七星と一緒にりんご飴を食べることにした。



◇七星side◇

 七星の提案によって、二人で早速りんご飴を食べ始めた……が、七星の心中は今、りんご飴どころでは無かった。

 ────泳いだ時に両手繋いだけど、こうして普通に手繋ぐとやっぱり全然違う……!ていうか、りんご飴食べてるのに手繋いだままなの!?手の方に意識行っちゃって、全然味に集中できないんだけど!それに、人色さんがさっきあんなに私のこと綺麗って、それにあの人私たちのことカップルって……あ〜!もう!こんなこと考えてたら夏祭りに集中できないよ!こんなこと考えるにしても夏祭り終わってからにしないと!

 七星が首を横に振って、今自らの頭に浮かんでいる考えを必死に振り払おうとしていると、霧真が言った。


「りんご飴、今まであまり食べたことは無かったが改めて食べてみると美味しいな」

「そ、そうですね!」


 そう頷いて、七星は改めて霧真のことを見る。

 ────りんご飴持ってる人色さん……可愛い〜!はぁ、カッコよくて可愛いとか最強じゃん、好き〜!

 それから少しの間りんご飴を持っている霧真のことを見ていた七星だったが、ふとこの後で行う予定の告白のことを思い出し、ついさっきの出来事と関連して言う。


「そ、それにしてもさっきの店主の人、私たちのことカップルって言うなんて驚いちゃいましたよね〜!」

「男女二人で居たらそう見えても仕方ないのかもな」

「そ、そうですよね〜!」


 普段だったらここで話を終わらせるところだが、七星は勇気を持って少し踏み込んだことを聞いてみることにした。


「人色さんは……私とカップルって言われて、どう感じましたか?」

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