第88話 手繋ぎ
◇七星side◇
────夏祭り当日。
この夏祭りは、七星にとってとても重要な日。
夏祭りという基本的には一年に一度程度しか楽しめないイベントの日だから、というのも当然あるが、七星からしてみればそれ以上に重要な日だった。
「今日で……今日で、人色さんに告白する……!」
────霧真に告白する。
それが今日の七星が行うと決めていること……だが、人生で告白されることは何度もあっても告白することは一度も無い七星は、朝起きた今現在から心臓の鼓動をとても早めていた。
「人色さんに告白……もし振られちゃったらどうしよう……せっかくこの夏休みで今まで以上に仲良くなれたのに、それで疎遠になっちゃったりして、前以上に避けられたりしたら……や、やっぱりまだ告白は早いかな?で、でも今日人色さんに告白するってこの夏休みずっと言い聞かせてきたんだから、ちゃんと今日告白しないと!」
そう言いながらも、七星の中には今までに無いほど緊張と不安が渦巻いている。
七星には、これまで霧真と関わってきて、少なくとも最初に比べれば今現在はその頃とは比べ物にならないほどに霧真と仲良くなったという確信があった。
そして、それと比例するように最初に比べて霧真のことを好きな度合いも比較にならないほど高くなっていることも今身を持って確信している。
その過程で、表面上落ち着いていて冷たそうに見える霧真が、本当は優しい人だということも、最初に夜道で七星のことを助けてくれた一件から始まって今では確信に至っていた。
だが────
「恋愛関連ってなると、人色さんがどんな感じになるのか、全然わからない……」
恋愛はその他の物事とはまた別であるため、霧真が優しいからと言ってそのことは恋愛には一切関係が無い。
「あ〜!もっと今まで人色さんと恋バナとかしとけば良かった〜!なんで友達と恋バナとか友達の彼氏の話とかは聞いてたのに肝心な人色さんとの恋バナはしてなかったの!?私のバカ!!」
霧真のことを好きだからこそ、霧真に告白を振られてしまった時のことを考えてしまい自室で一人そんなことを叫び続けていた七星だったが、その果てに────
「もう今度こそ決めた!絶対告白する!だって私、人色さんのこと大好きだし!告白する理由なんてそれだけで良いじゃん!」
一度決意したからと言って、そう簡単に感情というものを振り切ることはできず、当日になったからこそその不安の波が押し寄せてきた七星だった────が、今度こそ、そう強く決意して、七星は夏祭りに臨むことにした。
◇真霧side◇
しっかりと髪を上げたヘアセットをしてから、七星との待ち合わせ場所に到着した俺は、辺りを見回す────が。
そこに居たなら、いつも通り一目を集めているであろう七星の姿は、まだそこには無かった。
「待ち合わせ時間まであと5分……」
できることもないし、このまま待っておくか……それから4分の間、俺は夏祭り会場近くということでたくさんの人が目の前を行き交うのを見届けながら七星のことを大人しく待った────が、七星は姿を現さない。
「……もしかして、何かあったのか?」
またナンパ……じゃなかったとしても、この人混みで怪我をしている可能性だってある。
「……」
そんなことを考えていると、俺の中に今までに感じたことの無い暗い何かを感じた……これは、恐怖?いや……七星と会えないかもしれないことや、七星の身に何かあったのかもしれないということに対する不安か?
だが、どうして俺はそんなものを────
「人色さん!!」
そんなことを考えていると、俺のことを呼ぶ声が聞こえてきたためその方向を向くと、そこには浴衣を着た七星の姿があった────が、その直後人の波によって、七星は流されそうになる。
「と、人色さん……!!」
人に流されながらも、腕を伸ばして俺のことを呼ぶ七星の方に近づくと、俺はその手を引っ張って俺の身に抱き寄せた。
「大丈夫か?」
「っ……!はい!人色さんのおかげで大丈夫です!ありがとうございます!」
「良かった」
七星の安否確認が取れたところで、俺は七星から手を離すと、次に七星の浴衣姿を見る……白を基調として赤の模様が入っており、加えてその明るい金髪は、いつものロングヘアとは違いポニーテールの巻き髪となっていて、整ったボディラインも相まってその姿はとても────
「浴衣姿も綺麗だな」
「っ!?えっ!?そ、そうですか!?」
俺がそう言うと、七星は驚きながらも頬を紅潮させてそう言った。
「あぁ、その髪型も似合ってる」
「あ、ありがとうございます……!人色さんも、今日もすごく、かっこいいです……!」
待ち合わせて早々、互いに互いのことを褒め合うと、俺は七星に言った。
「音的に花火はまだだと思うが、夏祭りはもう始まってるみたいだから行くか」
そう言って、夏祭り会場に足を進めようとした俺だった────が。
「ま、待ってください人色さん!」
七星が声で俺のことを静止してきたため、俺は動きを止めると七星の方を見る。
すると、七星が照れた様子で口を開く。
「え、えっと、その……今日、人たくさん居て、もしかしたら人色さんとはぐれちゃうかもしれないので……手……とか、繋ぎませんか……?」
「それもそうか、じゃあ手を繋ごう」
「っ!?い、良いんですか!?」
「あぁ、断る理由が無い」
そう言うと、俺は七星の手を握る。
「っ!!」
「七星?」
「な、なんでもありません!」
「そうか、それなら今度こそ行こう」
「は、はい!!」
一瞬声を上げた七星のことを不思議に思った俺だったが、なんでもないということだったため、俺と七星はそのまま手を繋いで夏祭り会場へ足を進めた。
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