第86話 妄想
「その告白してきた相手が好きになれそうな人だったら承諾して恋人関係になるのかもしれないです」
「色人くんが好きになれそうな人ってどんな人?」
俺が好きになれそうな人……改めて問われると難しい問いだな。
今まで誰かを好きになったことがあるのだとしたら、その系統から割り出せば答えは簡単にわかることなんだろうが、生憎と俺には今まで誰かを好きになった経験というのが無いから、過去俺が好きになった人物の系統から俺の好きになる人というのを割り出すことはできない。
それでも、どうにか答えを出すのなら。
「努力ができる人、だと思います」
「っ……!へ、へぇ〜」
俺がそう答えると、水城先輩は何故か少し頬を赤く染めながらそう呟いた。
どうかしたんだろうか、と考えかけていた俺だったが、そんな俺に対して水城先輩は間を空けず、続けて口を開いて言う。
「じゃあ、好きな女の子のタイプとかは?今度は性格じゃなくて見た目の話!」
「見た目……」
性格でも十分難問だったが、見た目のタイプとなるとその難易度はさらに跳ね上がるな……というか────
「少なくとも、今すぐには浮かびそうにありません」
「え〜!」
俺がそう答えると、水城先輩は大きな声でそう声を上げる。
「一つぐらいあるでしょ?例えば体が引き締まってるとか胸が大きいとか水泳してるとか!」
「どうして水泳だけ明らかに種類が違うのかはわかりませんけど……胸はともかく、体が引き締まってるのは確かに良いかもしれません」
「っ!き、君でもそういうこと思ったりするんだ〜」
どこか驚いたような、だが嬉しそうにそんなことを呟いた水城先輩の言葉に対して、俺は頷いて答える。
「はい、体が引き締まってるのは日常からそのために努力してる証なので、俺だって魅力的だと思いますよ」
俺がそう答えると、嬉しそうな表情をしていた水城先輩は何故か急落したように表情から嬉しそうな感情を無くした。
「君の言いたいことはわかるけど、そうじゃ無いっていうか、もっと本能的に求めるようなっていうか……」
「……水城先輩?」
「あ〜!もう!そんな感じで将来彼女が出来て、その彼女のこと上手く褒めてあげれなかったりして振られちゃってもお姉さん知らないからね!」
どうして水城先輩が少し拗ねたように怒っているのかは全くわからなかったが、俺はそんな水城先輩の言葉に対して言う。
「俺にそういう存在ができたなら、俺はおそらくその人のことを上手に……かはわからないですけど、少なくとも褒めることを惜しんだりはしないと思いますよ」
「っ……!!そ、そうなの?」
「はい」
即答すると、水城先輩は何故か俺に背を向け、俺には聞こえないほど小さな声で何かを呟いていた。
俺は、そんな水城先輩に聞く。
「今度は俺が聞かせてもらいますけど、どうして突然こんな話を掘り下げようと思ったんですか?」
「えっ!?」
とても驚いた声を上げた水城先輩は、俺の方を振り向くと動揺した様子で言った。
「えっと……お、お姉さんも女の子だから、それなりに恋バナとか興味あるんだよね〜、今まで君とはそういう話あんまりして来なかったから、たまにはしたいな〜って思って」
「なるほど」
そういうことなら、一応納得することはできる。
「じゃあ、そろそろ行こっか?」
「わかりました」
水城先輩のその言葉によって、俺と水城先輩は水城先輩のオススメという美味しい食べ物を食べられる店に行くことにした。
◇水城side◇
水城は、真霧の横を歩きながらつい先ほどのことを思い返す。
水城が真霧にあれだけ恋愛に関することを聞いたのは、もちろん一般の女性が行う恋バナを行うため────ではなく、真霧の恋愛観を把握するため……だったが。
「────努力ができる人、だと思います」
「────体が引き締まってるのは確かに良いかもしれません」
「────体が引き締まってるのは日常からそのために努力してる証なので、俺だって魅力的だと思いますよ」
「────褒めることを惜しんだりはしないと思いますよ」
真霧から繰り出された数々の言葉によって────水城は、もし自らが真霧の彼女になったら、ということを妄想せずには居られなかった。
────もし私が色人くんの彼女になったら、例えば水泳の練習終わった後で家に帰ったら、色人くんが練習頑張ったこと褒めてくれたりするのかな……?それで、色人くんがジムとかでトレーニングを頑張ってきた後は、私が色人くんのことを抱きしめてあげながら褒めたり……?
そんな妄想をしていた水城は、すぐに自らの妄想のあることに気付く。
────家に帰ったら色人くんが居るってことは、私と色人くん同棲してるってことだよね……!?同棲ってことは夜も……
そこまで考えた水城は、今それ以上考えてしまうと間違いなくこの初デートに影響が出ると気付き、それ以上想像することをやめた。
────色人くん……お姉さん、君のこと好きすぎてもうダメかも……
そんなことを心の中で呟きながら頬を赤く染めている水城は、隣を歩く真霧の唇に熱い視線を送っていた。
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