第85話 初デート

◇真霧side◇

 ────水城先輩と出かける日。

 水城先輩との待ち合わせ時間5分前に待ち合わせ場所付近に到着すると、そこには一目を集めている存在があった。

 デニム素材の短いズボンから色白で長い脚を覗かせ、黒のハイネックオフショルダーの服を着た水城先輩だ。

 俺はどこかいつもとは違う服装をした水城先輩に少し驚きながらも、俺はすぐに水城先輩に近付いて声を掛ける。


「お待たせしました、水城先輩」

「っ!色人くん!おはよう〜!」


 水城先輩は、俺の方を振り向くととても明るい表情で挨拶を返してくれた。

 暑い中待たせてしまったが、ここは日陰になっているし、水城先輩の様子を見ても流石水泳大会優勝者と言うべきなのか、この暑さでも全く疲労している様子は無────いなんて考えていると、水城先輩はむしろ自らが暑さとは対義の存在であるとでも言いたげに俺のことを抱きしめようとして来たため、俺はそれを避ける。


「あ〜!なんで避けるの!?この間は私がハグしても全部受け入れてくれたのに!」

「あの時は水泳大会で水城先輩が優勝した時だったから受け入れていただけで、今後も受け入れるとは言ってないです」

「もう〜!!」


 水城先輩は頬を膨らませて不満そうな態度を取ったが、諦めたようにため息を吐くと、雰囲気を切り替えて両手を軽く広げて言った。


「お姉さん、こういう服普段全然着ないけど、今日は君とのデート……それも、初デートだからってことで着てみたんだけど……似合ってるかな?」

「はい、似合ってます」


 俺が思ったことをそのまま即答すると、水城先輩は嬉しそうな表情で口を開いて言う。


「良かった〜!普段着ない服を男の子に見せるのって思ったよりも緊張するね〜」

「そんな緊張なんて必要ないぐらい、今水城先輩の着てる服は元々の水城先輩の綺麗さを引き立ててくれてる感じで良いと思いますよ」

「っ……!き、君がそんなに褒めてくれるの、嬉しいな〜」


 頬を赤く染めてそう言った後、水城先輩は少し間を空けてから言う。


「色人くん、ちょっと私に背中向けてくれない?」

「背中……?良いですけど────」


 何故か水城先輩に背中を向けるよう言われた俺は、言われた通りに水城先輩の方に背中を向けた────その直後。

 水城先輩は、俺のことを後ろから抱きしめてきた。


「もう〜!油断したらダメだって前にも教えてあげたのに〜!でも、おかげでお姉さんは君のこと抱きしめてあげられて満足だけどね〜!ところで、今日はいつもと何かが違うと思わない?」

「……何か?」


 俺がそう聞き返すと、水城先輩はその大きな胸元を俺の背中に押し込むようにしながら言った。


「今日はオフショルダーの服を着てるから、着けてないんだよね〜!」

「着けてないって、何をですか?」


 水城先輩は元々アクセサリーを身に着けていないし、それ以外に何か着けていないものがあるようにも見えない。


「この感触でわからないかな〜?まぁ、特別に教えてあげるね〜!実は……」


 そう言うと、水城先輩は俺の耳元で囁くように言った。


「実は今日、上の下着……着けてきて無いんだよね────だから、今君の背中に当たってるのは、服一枚だけ挟んだお姉さんの胸なんだよ?どう?ドキドキする?」


 胸を押し当てながらそんなことを聞いてくる水城先輩に対して、俺は即答する。


「しません、というかオフショルダーだから上の下着を着ないなんて無理やりな話でそんな感情になるわけないじゃないですか」

「き、着物は下履かないみたいな感じでいけるかなって思ったんだけど、バレちゃった……?」


 動揺した様子でそう言って一度俺から離れた水城先輩は、今度は俺に向けて呆れた様子で言う。


「はぁ、それにしても、お姉さんは君のことが本当に色々と心配だよ……もし今後彼女が出来た時とかに今みたいなこと言ったら相手のこ傷付けちゃうから言ったらダメだよ?」

「少なくとも今のところそんな予定は無いので大丈夫です」


 そう言った俺だったが、水城先輩は少しだけ目を見開くと、口元を結んでから両腕を後ろに回して前のめりになって俺に聞いてきた。


「じゃあ────もし、色人くんのことを好きな子が居たとして、その子が色人くんに告白してきたら色人くんはどうするの?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る