第84話 こんなに好きなんだから

 ────七星と海に出かけてから数日後。

 8月もそろそろ終わりが見えてきた日の夜、スマートフォンに通知音が響いたためその相手を確認すると、その相手は水城先輩だったため、俺はすぐにメッセージ画面を開いた。

 すると────


『電話して良い〜?』


 というメッセージが送られてきていたため、俺は以前にもこんなことがあったなと思いながらも『はい』とすぐに返事を返した。

 すると、水城先輩から着信が入ったため、俺は水城先輩との電話を開始する。


『もしもし、色人くん!そろそろお姉さんと久しく会えてなかったり話せてなかったりで寂しいって感じてる時期だよね?ごめんね〜!すぐにでも日程調整の連絡するつもりなんだけど、全国の個人水泳大会で優勝したからってことでここ最近色々とスケジュール詰め詰めだったの!』


 俺は出だしから相変わらずな水城先輩に圧倒されながらも、その言葉の序盤辺りの記憶は消去することにして重要な部分だけを記憶に残して言う。


「それはお疲れ様でしたね、もう大丈夫なんですか?」

『うん、とりあえずこれからちょっとの間は落ち着きそう……だから、ようやく色人くんとのデートもできるってことになるね〜!』

「そうですか……それなら、日程決めに入りましょう」

『うん!』


 それから互いに日程決めを行い始めた結果、水城先輩は大会や優勝者関連のことが一度本当に落ち着いたらしく、スケジュールの自由度が高かったため、日程は瞬時に明後日だと決まった。


『────泳ぎの練習じゃ無く、デートっていう形で君と会うの初めてだからお姉さん本当に楽しみだよ〜』

「そうですね、俺も楽しみです」

『お姉さん、こう見えて美味しいものとか色々知ってるから、色人くんにいっぱい食べさせてあげたいな〜』

「水城先輩が勧めてくれるものなら、食べてみたいですね」

『本当!?じゃあ────」


 それから、俺と水城先輩は当日はどこで何を食べるかを楽しく話し合った。

 そして、それらが大まかに決まると────


『色人くん、明後日デートよろしくね!』

「はい、よろしくお願いします」


 という会話を最後に、俺たちは電話を終えた。


「……明後日、か」


 俺は、明後日に水城先輩のお勧めしてくれる美味しいものを一緒に食べに行くという楽しみもできたところで、今日は明後日に備える意味でも早い内に眠りについておくことにした。



◇水城side◇

 真霧との電話を終えた水城は、スマートフォンを机の上に置いてベッドの上に寝転がると、真霧と電話で話していた楽しい時間の余韻に浸りながら甘い声で呟く。


「私……君に『そろそろお姉さんと久しく会えてなかったり話せてなかったりで寂しいって感じてる時期だよね?』なんて言ったけど、本当は逆……私の方が、たった数日君と会わず、話さなかっただけで、寂しくなっちゃった……」


 水泳大会の優勝者として様々な雑誌や記事に取り上げられ、異例のタイムを見せたとして毎日様々な場所で賞賛される日々。

 本来であれば、満たされていないとおかしい────が、どれだけたくさんの賞賛をもらっても、真霧からの『優勝おめでとうございます、水城先輩』という賞賛以上に心に響いた賞賛は一つも無い。

 だからこそ、早く真霧に会いたくて会いたくて仕方が無い、それがここ数日水城葵が考え続けていたことだった。

 水城は、枕を真霧に見立てて優しく抱きしめる。


「ここ数日、君と話せてなくてあんなに寂しかったのに、今日ちょっと君と話しただけでこんなに温かい気持ちになるんだから、恋って不思議だよね……あ〜あ、もっと余裕のあるお姉さんで居たかったのにな〜、でも、仕方ないよね……君のこと、こんなに好きなんだから……色人くん、早く、会いたいな……」


 それから二日後────いよいよ、念願の真霧とデートに行く日となり、水城は水泳大会以来に気分を上昇させて真霧との待ち合わせ場所へ向かった。

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