第83話 衝撃

「な……七星?今のは、キ────」


 俺がその単語を言いかけた時、七星は夕焼けでは無いと判別できるほど頬を赤く染めて、照れた様子でありながらも俺の言葉を遮るようにして言った。


「わ、私がどうしてこんなことをしたのかは、ちゃんと夏祭りの時に伝えるので!それまで秘密……じゃ、ダメですか?」


 キスをしてきたのに夏祭りまでその理由を秘密にしたいということは、それだけ大きな理由ということなんだろうか。

 いずれにしても、七星の目から伝わってくる熱意が本物であることからも、七星が夏祭りに大きな思いをかけていることは間違いない……それなら。


「……わかった、七星がその方が良いって言うならそうしよう」

「ほ、本当にありがとうございます!」


 その後、俺たちの間に妙な沈黙が生まれると、七星が慌てた様子で言った。


「と、人色さん!嫌じゃなかったらで良いんですけど、せっかくの海なので二人で写真撮りませんか?も、もちろんSNSとかにアップはしないので!」

「そうだな、せっかくだし撮っておくか」

「あ、ありがとうございます!」


 二人で写真を撮ることが決定したため、俺と七星は海の家にあるロッカー前まで戻って来ると、七星が以前と変わらず最新機種と思われるスマートフォンをロッカーから取り出した。



◇七星side◇

 七星と霧真が海を背景とする砂浜までやって来ると、七星はスマートフォンを撮り出してそれをインカメラにする。

 すると、霧真は七星との距離を肩と肩が触れ合う程度に縮めた。


「と、人色さん!?」

「どうした?」

「ど、どうって……きょ、距離近く無いですか!?」


 キスをした直後の照れはどうにか落ち着いてきていた七星だったが、ここに来て霧真がとても距離を縮めてきたことに対して照れと驚愕を覚えてそう言うと、霧真が言った。


「七星と初めて出かけた日に写真を撮った時、このぐらいの距離が普通だと言って居たからこうしたんだが……そうか、もしかして水着姿だと色々勝手が違うのか?」

「え?あ、あ〜……」


 七星は、その時の記憶を鮮明に思い出す。


「────と、人色さん……もう少し、寄れますか?」

「わかった」

「っ……!」

「……素人の意見で悪いが、写真を撮るときは普通こんなにも距離を縮めるものなのか?」

「は、はい……!こんな感じですよ!」


 ────そ、そうだった……!私、あの時人色さんと距離を縮めて写真を撮るために、肩と肩が触れ合うのが普通だって言ったんだった!

 その時の記憶を思い出し、過去の自らの行動に恥ずかしさを覚える七星だが、七星としても霧真と肩が触れ合う距離で写真を撮れることは問題無い、どころか望ましいことのため、その思いを胸に霧真に言う。


「い、いえ!水着でも一緒です!……けど」

「けど?」

「その……私以外の女の子と、簡単にこんな距離で撮ったりしたら……ダメ、ですからね?」

「わかった、気を付けよう」


 霧真は特にその言葉に引っ掛かりを覚えた様子もなく頷いてそう答えると、七星は海が背景に映るように画角を調整する。

 ────ていうか、インカメラに映る人色さんがカッコよすぎて画角調整まともにできない……!

 そんな思考を巡らせながらも、伊達にモデルをしているわけではない七星はしっかりと画角を合わせた。


「じゃあ、撮りますね!人色さん!」

「あぁ」


 霧真は何のポーズも撮っていないが、七星はしっかりと画角に合わせて完璧な角度でピースを作り、写真を撮った。


「良い感じに撮れてるか?」

「確認してみますね!」


 七星は、慣れた手つきでスマートフォンを操作すると、今撮った写真をその大きなスマートフォンの画面に映し出す。

 すると────そこには、夕焼けの光を反射した海を背景に、とても綺麗に映る水着姿の七星と霧真の姿があった。


「っ!めっちゃ良い感じに撮れてます!人色さんも見てください!」


 七星がスマートフォンの画面を霧真に見せる。


「流石七星だな、本当に綺麗に撮れてる」

「あ、ありがとうございます!人色さんにも共有しておきますね!」

「ありがとう」


 七星は相変わらず慣れた手つきでスマートフォンを操作すると、すぐにその写真を霧真に共有した。


「じゃあ人色さん、そろそろ暗くなって来る時間なので、プロデューサー呼んで帰りますか?」

「そうしよう」


 霧真が頷いてそう言うと、七星はそのままプロデューサーに連絡を入れて車で迎えに来てもらうよう伝えた。

 その後、二人は水着姿から私服に着替えると、少ししてからプロデューサーが車で迎えに来たため、その車に乗って待ち合わせ場所まで戻ると二人は途中まで一緒に帰宅した────そして、帰路の分かれ道。


「人色さん、今日も本当にありがとうございました!夏祭りも、本当に楽しみにしてますね!」

「あぁ、俺も楽しみにしてる」


 そう言うと、霧真は帰り道を歩いて行く。

 本当は、今すぐにでも七星の気持ちを伝えたかったが、その気持ちを堪えて七星も帰り道を歩くと家に帰って自室に入る。

 そして、ベッドの上で今日霧真と撮った写真に写っている霧真のことを見ると、七星は今日霧真と両手を握り合ったことや霧真の右頬にキスをしたことを思い出し、その恥ずかしさを隠すようにベッドの上を転がり回った。



◇真霧side◇

 家に帰ってきて椅子に座った俺は、自らの右頬に触れて一言だけ呟いた。


「────思った以上に……心に衝撃を感じるものなんだな」

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