第81話 全然やめられない!
あの後、もう他の誰かが通報してくれていたのか、思いの外早く警察がやって来たので、俺はチャラそうな男たち三人を警察に引き渡した。
そして、警察が去って俺と七星が視線を集めることも無くなったところで、俺と七星はいよいよ海で遊ぶことになり、海へ到着すると膝下までを海水に浸らせる。
「冷た〜い!でも、この暑い日にはそれが良いですよね〜!」
「そうだな」
それから、七星は間を空けることなく海の奥の方を指差して言った。
「私、水平線って海でしか見れない特別感とか、純粋に綺麗な感じがめっちゃ好きなんですよ〜!人色さんはどうですか?」
「あぁ、俺も見ていて心が落ち着くから良いと思う」
「わかります!」
七星は明るい声でそう言うと、海の奥の方を指差すのをやめた。
すると、続けて楽しそうに言う。
「人色さん!せっかくの海なのでもうちょっと奥まで行って泳いじゃいましょう!」
「泳ぐ、か……俺は大丈夫だと思うが、七星は大丈夫なのか?」
「もちろんです!海では泳いだことって無かったんですけど、プールだと結構泳げる方なので!」
「……プールと海だと色々勝手が違うから、最初は何かに掴まりながら泳いで、感覚を掴んだ方が良いかもしれない」
「なるほど……何かに掴まるってなると、ビート板とかですか?」
確かに、泳ぐ時に掴まる物言ったらビート板になるが……ビート板だと万が一波の流れが強くなった時に七星が危険な目に遭ってしまう可能性がある。
そのため、プールなら良いが海だとあまり使わない方が良いかもしれない。
ビート板以外で、七星が安全な形で何かに掴まれる方法……少し考えた結果、俺はある方法を思いついたため、その案を頭の中で思い浮かべながら七星に言った。
「俺に良い案がある、今から泳ぐってことならもっと深いところに行こう」
「わかりました!」
そして、俺と七星が体の大部分が埋まるほどの深さのところまでやって来ると、俺は七星に両手を差し出した。
「……人色さん?」
その突然の俺の行動が理解できなかったのか、七星が俺のことを不思議そうに見ると、俺は七星に言った。
「この俺の両手を握ってくれ」
「……え?……えぇ!?」
七星の困惑を晴らすために言った言葉だったが、七星は余計に混乱してしまったらしくとても驚いた声を上げた。
「ただ握ってくれと言っているわけじゃない、要するに俺がビート板の役目の代わりになるってことだ」
「と、人色さんが、ビート板の代わりに……」
「あぁ、俺ならビート板と違って例え波が来たとしてもそう簡単に流されたりしないし、場合によっては七星を抱えて砂浜の方まで泳ぐことだってできる……それに、これはあくまでも七星が海で泳ぐことの感覚に慣れるまでの間だけだ」
俺が具体的に説明すると、七星は頷いてから言った。
「わ……わかりました、じゃあ、人色さんの両手……握りますね」
「あぁ」
そう言うと、七星は頬を赤く染めて恥ずかしそうにしながらゆっくりと俺の両手を握った……が、その力は少し弱かった。
手を握る力が弱ければ離れてしまう可能性があるため、俺は七星の手を握っている手に力を入れる。
「っ……!」
すると、七星はより頬を紅潮させたが、今度はしっかりと俺の手を握り返してくれたため、これで俺と七星の手が離れることは無いだろう。
「じゃあ七星、試しに泳いでみてくれ」
「わ、わかりました!」
七星は相変わらず恥ずかしそうにしながらもそう言うと、早速泳ぎ始めた。
俺は、七星が泳ぐのに合わせて後ろへ後退する。
「どうだ?泳げそうか?」
「は、はい!問題無さそうです!……でも、もうちょっとだけこうしてても良いですか?」
「もちろんだ」
初めて海で泳ぐとなれば、少し感覚を掴めたとしても不安な点はあるだろうから、当然俺はその七星の言葉に頷いた。
◇七星side◇
七星が霧真と手を握り合って泳ぎ始めてから約5分。
────ど、どうしよう……もう泳ぎの方は絶対大丈夫だけど……人色さんと握ってる手を離すのが嫌で全然やめられない!
七星は、泳ぎながらも霧真と握っている自らの手に意識を集中させる。
────人色さんが真面目に私のためを思ってこんなことしてくれてる時にこんなこと考えたらダメってわかってるけど、人色さんの手、大きくて、がっちりとしてて、握っててすごく安心する……もう〜!だから、そういうこと考えたらダメなんだってば!!
七星は、その感情を表すように思い切りバタ足をする。
「七星?どうかしたのか?」
その突然の泳ぎ方の変化に疑問を抱いた様子の霧真がそう聞いてくると、七星は慌てて言った。
「な、なんでもないです!」
「そうか」
七星は、その後も霧真と手を握り合って泳ぎながら考える。
────今の時間も幸せ、だけど……私はもっと、もっと人色さんと色んなことをしたい!今日はその第一歩を踏み出す日なんだから、ここで人色さんの優しさに甘えてたらダメだよ私!
そう自らに言い聞かせながらも、それから数分間の間、七星は霧真の両手を握り続けながら泳いだ。
そして、二人で海を泳ぎ水を掛け合ったりして過ごすと────いつの間にか時刻は夕暮れ時となっており、水平線の向こうからとても眩しい夕焼けが二人の居る海を照らしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます