第80話 撃退
◇真霧side◇
七星の安全確認を行うためにも色々と七星に聞きたいところだが、今はひとまず────
「て、てめぇ……!俺にこんなことして、タダで済むと思うなよ……!」
こいつらのことをどうにかしないといけない。
「タダで済まさないのは俺の方だ、七星に手を出そうとしてタダで帰れると思わないことだ」
俺は、一度俺のことを抱きしめている七星の両方を掴んで言った。
「七星、少し俺から離れてくれるか?すぐに終わらせる」
「は、はい……!」
そう言うと、七星は少しだけ俺から距離を取る。
これで改めて自由に戦える、という状況になったところで、相手の三人も準備万端なのか俺を取り囲むようにして言った。
「右腕痛ぇ、先に暴力を振るわれたのは俺たちの方なんだ、ここから俺たち三人がお前に暴行を行ったとしても正当防衛になるってことだよな?」
「おお!そうだな!」
「天才だぜ!」
その言葉に対して後の二人もとてもぬか喜びをしているみたいだが、俺はそれが不可能であることを言葉で証明する。
「残念だが、お前たちに正当防衛なんていう権利は無い……どちらかと言えば、その権利は俺が行使することができる」
「あぁ?なんでだよ」
「お前たちが七星のことを強引に連れて行こうとするのを、俺が止めるために力を振るったからだ」
「バカが、ここは海だぞ?監視カメラも無いのにどうやってそのことを証明するってんだ?」
多少頭が回るからこそ、単純なことに気付くことができないらしい。
「そこに居る七星は、お前たちが容姿の魅力を認めて連れて行こうとしたように、他の人たちの目も奪っている」
これは今までの待ち合わせの時やそれ以外の時でもわかっていたことだが、七星は一目を集める存在。
そんな存在が海に来て水着姿となっていることに加えて、誰がされても目立ってしまうような悪質なことをされているともなれば、視線を集めないなんてことが起き得るはずも無い、
「周りを見てみればわかることだが、監視カメラなんてなくても────この海に居る全員が証人だ」
「っ!?」
そう伝えると、チャラそうな男三人は周りをキョロキョロと見回し始めた。
すると、次第に顔を青ざめていく……が、途中で俺のことが視界に入ったのか、青ざめた顔を怒りに染めて言った。
「ク、クソッ、全部お前のせいだ!お前さえ居なかったら……お前ら!周りのことなんて気にしてやる必要はねえ!目の前のこいつを黙らせれば、他のやつだってビビって俺たちにとって不都合な証言はしなくなる!やるぞ!」
何とも短絡的な思考だが、どうにか今の話に他の二人は納得した様子で頷くと、三人ともが俺に怒りの目を向けてきた。
そして、そのうちの一人が俺に殴りかかってくる。
この状況なら、仮に何か大きな問題ごとに発展したとしても間違いなく正当防衛は通るし、地面は砂浜……地面がコンクリートではなく砂なのであれば、そこまで手加減することを意識しなくても問題は無いだろう。
それに……万が一今回の件で七星に逆恨みでもされたら困るからな────今後七星に手を出そうなんてことを考えさせないためにも、やはり手加減は不要。
俺は、殴りかかってきた男の手首を掴んでそのまま捻ると、軽くその男の腹部を肘で突いて最後に首刀を行うことで完全に気絶させる。
「お、お前ぇ!」
もはや説明は不要で、もう一人も似たような流れで最後に首刀を行い気絶させた。
残りは、ずっと俺と言葉を交わしていたチャラそうな男ただ一人となる。
「こ、こうなったら……」
そして、その男は俺には勝てないと悟ったのか、一か八か七星に近づこうとして七星に向けて腕を伸ばした────が、そんなことを俺が許すはずもなく、七星から離すように突き飛ばすと、足を崩してダウンを取ってから首刀で意識を奪った。
「よし……これで、後は警察に突き出すだけだ」
「と、人色さん!」
俺がそう呟くと、七星が俺の方に駆け寄ってきて心配した様子で言った。
「人色さん、どこか痛いところとか、怪我したところとか無いですか?」
「大丈夫だ、心配してくれてありがとう」
「っ……!良かったです……!」
そう言って胸を撫で下ろし安堵した様子の七星に、今度は俺が聞く。
「七星は、あいつらに何もされなかったか?」
「は、はい!あとちょっとで触られそうになりましたけど、人色さんが助けてくれたので結果的に触られることも無かったです!」
「そうか……良かった」
俺は七星の安全確認ができたことに安堵すると、七星のことを抱きしめた。
「っ……!?と、人色さん!?」
「本当に、不安な状況で待たせて悪かったな」
「っ……!人色さんのせいじゃないですから、謝らないでください!人色さんのおかげで、私……本当に、本当にありがとうございます!」
そう言うと、七星は俺のことを力強く抱きしめ返してきて、それから少しの間俺たちは周りの視線も気にせずに互いのことを抱きしめ合った。
……それにしても、俺はさっき七星がこの男たちに囲まれているのを見た時、ここまで全力で走ってきた。
当然のことのように思えるかもしれないが、あの時俺の中にはおそらく当然以外の何かがあった……七星と学校外で初めて出会った時も似たような状況だったが、あの時には感じなかった感情。
────焦燥感、と言うんだろうか。
前は七星に言い寄っていた男が二人だったが、今回は三人だったから前よりも焦ってしまった……なんて話で無いことは自分でもよくわかる。
なら────あの焦燥感の正体は……?
「……」
またも考えないといけないことが増えてしまったが、今はひとまず不安だっただろう状況から解放された七星のことを抱きしめ続けることにした。
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